白昼夢。
初めての投稿です。
よろしくお願いします。
自分の部屋の窓の正面、嫌でも目に入る隣家のニ階の窓。
あそこの部屋のカーテンは、今は開くことはない。
私の左手首には大きくてごつい、男物の腕時計がある。
そしてその時計は時間がずれている。
私が買ったものでも、時間をずらしたわけでもない。
付けていても意味はない。
しかしずっと付けている。
「その時計、まだ付けてくれてるんだね。」
自分一人しかいなかったはずの部屋に、自分と同い年の幼馴染の青年がドアに寄りかかっていた。
どんなに文句を言っても、いきなり現れるのをやめない。
今ではそれが当たり前になってしまった。
「…習慣。」
のろのろと窓の前から動いて、すぐ近くのベッドに倒れこむ。
彼が私に近づき、左手首を見た。
「時間もずれたままだ。」
「…直すのがめんどくさくて。」
「僕が直してあげようか?」
「別に…、このままでいい。」
「そう?」
「そう。」
けだるそうに答える私に彼は苦笑した。
「もう必要ないのに。僕はここにいるんだから。」
ずれた時間は時差の分。
彼と私が離れていた距離の分。
今、何時で、何をしているのか。
簡単にわかるようにと、彼がしていた腕時計を無理やり渡された。
今、彼は私の目の前にいる。
だからこの時計はもう必要はない。
だけど、時計はずれたまま、私の左手首で時を刻み続けている。
ずっと一緒にはいられないから。
「何言ってんの。ずっと一緒だよ。
君が望んでくれる限り、僕はここにこうして存在している。」
彼はベッドに寄りかかり、座った。
ずっと一緒だった。
小中高、同じ学校に通い、お互いの家の行き来も、自分の家のようにしていた。
一緒にいるのが当たり前だった。
「…うそつき。」
「なんで?」
彼は不満そうに私を見る。
「その時計はもういらないよ。どうしてそんな大事に持っていてくれるの?」
彼のばかばかしい質問に、天井を見上げながら答える。
「…お前が大事に持ってろって言ったんじゃないか。お気に入りだからって。
お前が時間をずらしたんじゃないか。自分の行動がわかるようにって。」
天井から彼が座っていた場所に視線を戻すと、そこには誰もいない。
「………そうやって、私を置いて消えるくせに。」
ベッドから起き上がり、窓の外を見る。
その正面には隣家のニ階の窓がある。
その部屋は、主人がいなくなってから手を付けられていない。
いまだ、主人の帰りを待ち続けている。
「置いて行くなら、こんなものもいらなかった。
でも、無理やり私に持たせた。
なのに、お前がこの時計をいらないって言うんだな…。」
いくら自分の幻想だとしても、酷すぎる。
白昼夢。
自分の見慣れた部屋で幻を見る。
最後まで見ていただき、ありがとうございます。
感想や叱責などありましたら、どんどんお願いします。