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【1】学院(2)

「残念ですわぁ。」


レイチェルとレナが教室を去ると、カナリヤは、床に落ちていたクッションを手にして心底残念そうにため息を吐いた。


「アティー、私とクッション投げやりませんこと?」


期待を込めた瞳で見つめられたアティーもまた足元に落ちていたクッションをすべてひろいながらため息を吐く。このカナリヤ王女はアティーを助ける目的でこの教室に入ってきたわけではない。ただ、純粋にクッション投げがしたかったから。


「だ~め~?」


クッションをポーンポンと自分の頭上に上げて遊びだした王女の姿はとてつもなく平和。


「ぽーん。ぽ~んぽん♪」


黒いストレートの髪がクッションが上に上がるたびにゆらゆらゆれる。王女独特のゆったりとした話し口調に毒気を抜かれ、今までの緊張が緩んだ。が、だからといってクッション投げをする気分にもならなかった。


「クッション投げはしません。そもそもクッションは投げるものではありません。」

「えー。楽しそうなのに…やりましょうよ~?」


ポス。

アティーの顔にやわらかい物があたる。

ポスポス。


「ほらほーら~。」


さきほどのレナと同じことをされているといえばそうなのだが、怒るよりも脱力感の方が強かった。レナより命中率が高いが所詮ふわふわ。痛くはない。


「そろそろ夕食会の時間ですよ?」

「えーや~だ~。」


ポス。

そう。クッションを投げられたところで怪我をするわけではない。レイチェルとレナだってそれを知っていて投げている。この学院で外傷NGは暗黙の“いじめルール”だった。その代わり、精神的なエゲツナイいじめ方がマニュアル本で出回るような世界だ。レイチェルとレナは、表立って言ってくるだけ可愛いものだった。カナリヤが抑制しているからか、アティーの学年では精神的に落ちて部屋から出られない「脱落者」と呼ばれる者はいなかった。彼らには卒業後、たとえ第一王子だとしても国王になることもなく一生影で生きる道しか残されていないシビアな現実が待っていた。アティーはそれだけはなりたくなかった。


それでも、今みたいに直接的に言葉を投げられると、心が折れそうになる。学院は戦場。アティーはこの学院が大嫌いだった。ふと、意識をカナリヤに戻すと、アティーに投げきったクッションを今度はソファーへ向かって投げ始めたところだった。脱力しながらもカナリヤを少し低くした声で呼ぶ。


「カナリヤ様。」


「は~い。わかりました~。じゃあ会場へ向かいましょう。今日の夕食何かしらね?」


カナリヤの興味はいつのまにかクッションより夕食の献立に移っていた。


「行きますよ?」

「は~い♪」


カナリヤは自分より上位だとか、下位だとか、悪口を言っているだとか褒められただとか。そんなものには興味を持たないようだった。それは、言い方を変えると人に興味がないということでもある。彼女は誰の影響も受けずに彼女の世界を構築していた。だから、アティーにもレイチェルにも同じように接する。それを知っていても、アティーはこのちょっとズレタほわほわした王女が好きだった。この学院で、このクラスで、アティーをけして下に見ることのない戦場に平和をもたらす変わった王女様を。

アティー=クロード=アレギレア(12)

カナリヤ=グルク(12)

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