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第四十記録【社会的間引き】



 

 九条アイランド、コテージにて。


 広々としたリビングの照明は落とされ、テーブルの中央で揺らめく数本のキャンドルだけが、六人の顔を青白く照らし出している。


 重苦しい静寂。

 張り詰めた緊張感。


 私の背後で、明菜が道化師のようなポーズを取りながら、ねっとりと囁いた。


 『人狼ゲーム……それは、信頼という名の薄い皮を剥ぎ取り、疑心暗鬼というナイフで刺し合う、とっても素敵な社会的間引きよ』


 彼女は私の耳元で、楽しげにクスクスと笑う。


 『嘘つきは誰? 食べられるのは誰? ……さぁ、晩餐会の始まりだわ』


 ……どうしてこうなった。


 私は心の中で天を仰いだ。

 時間を遡ること、二十分前。

 

 コテージの外、テラスの端っこ。


 遠くの浜辺では、社員たちがキャンプファイヤーを囲んで、民族舞踊か何かのように踊り狂っている。

 空が昼間のように明るい。


 その喧騒から離れた場所で、私とアカネちゃんは二人きり、カシスオレンジのグラスを傾けていた。


 『カシオレぇ〜?』


 私たちの目の前で、明菜が極彩色のジュリアナ扇子を振り回して踊っている。


 『アンタたち、女子大生気取りかしら? バブルを舐めないでちょうだい! 酒はガソリン! 飲むならテキーラよ! ヒゥー!』


 羽が舞う。邪魔だ。

 私は華麗にスルーして、隣のアカネちゃんに向き直った。


 「一条さんって、ゲームするんですね。意外です」


 アカネちゃんが目を丸くしている。

 さっき、うっかりスマホのギルド通知を見られたのだ。


 「そうなの、最近は忙しくてできてないんだけどねー(大嘘)。……ていうか、茉莉子でいいよ! 私もアカネちゃんって呼びたい」


 「ほんとに!?」


 アカネちゃんの瞳が潤み、とろんと輝いた。

 なんてピュアな反応。汚れた心が洗われるようだ。


 「私、入社してからずっと心細くて……周りはエリートばっかりだし……。じゃあ、茉莉子ちゃんって呼ぶね」


 「もちろん!」


 私たちはグラスを軽く合わせた。

 カチン、と涼やかな音が鳴る。


 くぅ〜〜ッ! 私にもついにリアルで女子のフレンドができてしまったぜぇ! SSR「親友」ゲットだぜ!


 これよ。私が求めていたのは、こういう女子会なのよ。

 筋肉とか、論理とか、フェロモンとか、そういうカロリー高いのは今はお腹いっぱい。

 

 「あっ、いたいた茉莉子さーん」


 甘ったるい声が、癒やしの空間を引き裂いた。


 振り返ると、凪が立っていた。

 白いリネンシャツのボタンは相変わらず開けっ放しで、少し酒が入っているのか、頬がほんのりと赤い。


 「どしたの?」


 「お二人さん、いま時間ありますか?」


 「時間? まぁ、ないこともないけど……今、アカネちゃんと大事な話を……」


 「そうなんですね」


 凪はニコリと笑い、私の手首を掴んだ。


 「じゃあ、暇だってことだ」


 「は?」


 有無を言わさぬ握力。

 彼はそのまま、もう片方の手でアカネちゃんの手も掴んだ。


 「2人とも着いてきて。……夜はこれからですよ」


 「え、ちょ、ちょっと!?」


 私たちは子猫のように首根っこを掴まれ、リビングへと引きずり込まれたのだった。

 

 そして、現在。


 リビングの大きなローテーブルを囲んでいるのは、私、大樹、凪、ユンジン、恭弥、レオさん。

 九条グローバルが誇る、顔面偏差値カンストの猛者(もさ)たち。


 そして、進行役(GM)の席には、おどおどとした様子のアカネちゃんが座っている。


 「で、なんで人狼なのよ……」


 「暇つぶしだ」


 恭弥がタブレットを伏せ、眼鏡を光らせた。

 ユンジンが呆れたようにワイングラスを揺らす。


 「凪が言い出したんだろ。「ただ飲むだけじゃつまらない」って」


 「だって、せっかく役者が揃ってるんですから」


 凪がトランプのようなカードの束をシャッフルし、テーブルの中央に広げた。


 「ルールは簡単。この村には、人の皮を被った『人狼』が紛れ込んでいます。毎晩一人ずつ村人を食い殺す化け物が」


 彼は歌うように説明する。


 「今回の村には『騎士』はいません。つまり、夜に襲われたら誰も守れない。純粋な推理と騙し合いだけのゲームです。……さぁ、カードを引いてください」


 騎士なし。

 それはつまり、人狼側が圧倒的に有利な短期決戦ルール。

 一度でもミスれば、村は滅びる。


 私は震える手で、目の前のカードをめくった。

 自分だけに絵柄が見えるように、そっと端を持ち上げる。


 そこには、血塗られた牙を剥き出しにした狼の絵が描かれていた。


 【人狼】。


 引いてしまった。


 心臓が一瞬跳ねる。

 だが、すぐに冷徹な思考が脳内を支配した。


 プレイヤーは6人。人狼は1人。

 今日の昼に1人吊り、夜に1人噛む。残りは4人。

 明日の昼に1人吊り、夜に1人噛む。残りは2人。


 ――そこまで行けば、人狼の勝利だ。

 つまり、私はたった2回、処刑を逃れればいい。


 『あら〜♡ 捕食者はお好き?』


 明菜が私の肩越しにカードを覗き込み、今日一番の楽しそうな笑顔を見せた。


 『いいカード引いたじゃない。アンタの演技力が試されるわね。適当に茶化して、仲良く殺しなさい。ガンバレ〜♡』


 彼女は意地悪く言い残し、フッと消えた。


 OK。やってやる。


 私は深く息を吸い込み、瞬時に脳内のスイッチを切り替えた。


 【女優モード:ON】。

 【ゲーマー思考:ON】。


 震える指先を隠し、私は怯えたように眉を下げた。


 「では、第一夜。……えっと顔を上げる前に、ゲームの仕様上人狼が有利なのでゲームが始まる前に占い師の人は1人占う権利があります。占い師の人は顔をあげて人狼だと思う人を占ってください」


 視覚と聴覚をシャットダウンしアカネちゃんの指示を待つ。


「夜が明けました……皆さん顔をあげてください」


 GMのアカネちゃんの声で、ゲームが始まった。

 

 「確率論から言えば」


 口火を切ったのは、やはりこの男だった。

 剣崎恭弥。


 「口数が少ない者が怪しい。心理的に、隠し事をしている人間は発言を避ける傾向にある。……ユンジン、キミの心拍数は安定しているか?」


 いきなりのロックオン。

 恭弥は「村人」だろう。推理を回して白黒つけようとする姿勢は、典型的な村側のそれだ。

 厄介なのは、彼の発言力が強すぎること。彼が生きていれば、いずれ論理で私を追い詰める。


 「は? なんでボクなんだ。……ボクはただ、この非生産的なゲームに呆れてるだけだ」


 ユンジンが不快そうに返す。

 彼の反応も「村人」くさい。人狼ならもう少し愛想良く振る舞うはずだ。


 と、その時。


 「お、俺は……俺はユンジンじゃないと思うぞ!」


 大樹が、不自然な大声でカットインしてきた。

 彼の視線が泳いでいる。

 汗をかき、しきりに水を飲んでいる。


 なんだ、その反応は?


 私は観察する。

 大樹は嘘がつけないタイプだ。

 もし彼が「村人」なら、あんな風に誰かを庇ったりせず、黙って気配を消そうとするはず。


 なのに、彼は必死にユンジンを庇おうとしている。しかも根拠なく。

 ということは――


 「役職持ち」か。それも「占い師」。


 彼はおそらく、昨夜の行動でユンジンを占ったのだ。結果は「白(人間)」。

 だから庇いたい。でも、まだカミングアウトするには早いと思って言えない。

 だから挙動不審になっている。


 わかりやすい。これなら利用できる。


 「根拠はあるのか? 大樹」


 恭弥が冷たく問いただす。


 「えっ、い、いや、直感だ! 俺の直感がそう言ってるんだ!」


 「非論理的だな。直感で捜査を攪乱するなら、キミが人狼の可能性も高い」


 恭弥の矛先が、挙動不審な大樹に向き始めた。


 まずい。

 ここで大樹を吊るのは悪手だ。

 彼には「偽の容疑者」として生き残ってもらった方が、私の隠れ蓑になる。


 消すべきは、場を論理で支配しようとする恭弥だ。


 「恭弥、少し落ち着きなよ」


 不意に、静かな声が響いた。

 桐生レオだ。


 彼は頬杖をついたまま、けだるげな視線を恭弥に向けている。


 「大樹くんの直感はバカにできないよ。……それに、君のその攻撃的な態度は、周りを萎縮させるだけだ」


 レオさんが私をチラリと見た。

 目が合った瞬間、ゾクリとするような冷たい光が見えた気がした。


 「ほら、シンデレラが怖がってる」


 ……こいつ、私をダシに使った?


 でも、これはチャンスだ。

 レオさんが恭弥の論理に亀裂を入れてくれた。ここを広げる。


 私は両手で自分の二の腕を抱き、わざとらしく体を震わせた。


 「……あの」


 消え入りそうな声。

 全員の視線が集まる。


 「ケンカはやめてください……。私、こういうの怖くて……よくわからなくて……」


 上目遣いで、潤んだ瞳を演出する。


 「……恭弥の理詰め、ちょっと怖い。……まるで、私たちを誘導して、誰かを吊ろうとしてるみたいで……」


 ポツリと落とした一言。

 「論理」を「悪意ある誘導」へとすり替える、魔女の一撃。


 「確かに」


 凪がニヤリと笑う。

 この男は場が荒れれば何でもいいのだ。


 「恭弥さん、最初から必死すぎですよね。焦ってるように見えるのは、あなたの方かも?」


 「なっ……オレはただ、最適解を……」


 恭弥が目を見開く。

 論理の隙を「感情論」で突かれた天才が、言葉に詰まる。


 「そうだよな! 恭弥、お前が黒幕だ!」


 自分が疑われそうになっていた大樹が、渡りに船とばかりに便乗する。


 「投票の時間です」


 アカネちゃんが無慈悲に告げる。

 結果は明白だった。

 

 追放者:剣崎恭弥。


 「……愚かだ」


 恭弥は不服そうに眼鏡を直し、退場エリアへと追いやられた。


 よし。まずは一人、論理の壁を排除した。


 「夜が来ました。人狼の方、目を開けてください」


 全員が目を閉じ、部屋が静まり返る。

 私はゆっくりと目を開けた。


 GMのアカネちゃんが私を見て、小さく頷く。

 その顔には「茉莉子ちゃん、頑張って」という応援の色が見える。


 私は音もなく指を差した。

 ターゲットは――ユンジン。


 大樹くんは、初日にユンジンを占って「白」だと知っている……多分。

 もし私が大樹を噛めば、ユンジンは「大樹が白出しした確白(確定白)」として生き残り、リーダーシップを発揮するだろう。それは厄介だ。


 逆にユンジンを噛めば、大樹は「せっかく占った白が消えた」ことで焦り、さらに挙動不審になるはず。


 さよなら、美味しいご飯をありがとう。


 私は再び目を閉じた。


 「朝が来ました。……昨晩の犠牲者は、ユンジンさんです」


 「チッ……」


 ユンジンが盛大に舌打ちをし、サングラスを外してテーブルに叩きつけた。


 「やっぱりボクを狙ったか。……効率の悪いことを」


 彼は悔しそうに退場し、恭弥の隣に座った。


 残るは四人。

 私(狼)、大樹(占)、凪、レオ様。


 今日、誰か一人を吊れば、今夜の襲撃で私の勝ちが決まる。


 「さて」


 凪が脚を組み替え、不敵な笑みを浮かべた。


 「霊媒師として、昨日の結果をお伝えしますよ」


 場が凍りつく。

 霊媒師のカミングアウト。

 処刑された人が人間だったか人狼だったかを知る役職だ。


 「昨日追放された恭弥さんは……『人間』でした」


 凪の視線が、鋭く光る。


 「つまり、僕たちは無実の人を吊ってしまった。……そして、真っ先に恭弥を疑い、誘導した人物が怪しい」


 凪の目が、ギロリと大樹に向く。


 「大樹さん。あなたが人狼ですね?」


 「な、なんだと!?」


 大樹が立ち上がる。

 顔面蒼白だ。


 「ち、違げぇよ! 俺は人狼じゃねぇ! 俺は……占い師だ!」


 ここで占い師CO。

 遅い。遅すぎる。


 「昨日の夜、俺はユンジンを占った! あいつは白だった! だから昨日はあいつを庇ったんだよ! ……で、でも噛まれちまった!」


 大樹が必死に叫ぶ。

 しかし、その言葉はあまりに都合よく響く。

 初日にCOしていれば信用されたものを、隠していたせいで、今はただの言い訳にしか聞こえない。


 「ハハッ、苦しい言い訳ですね」


 凪が鼻で笑う。


 「初日は挙動不審で、今日は『占った相手が死んだ』と言い訳する。……まるで、人狼が苦し紛れに占い師を騙っているようにしか見えませんよ?」


 「ち、違げぇって! 俺は本物だ!」


 大樹が吠えるが、論理の組み立てが弱すぎる。

 凪のペースだ。


 ……なるほど。


 私は盤面を整理する。

 大樹は「本物の占い師」。

 凪は……おそらく「本物の霊媒師」だ。

 そしてレオさんは、ただの「村人」。


 今、凪は大樹を人狼だと思って攻めている。

 大樹はパニック状態。

 このまま凪に乗っかって大樹を吊れば、私の勝ち……?


 いや、待て。


 ふと、視線を感じた。

 レオさんだ。


 彼は議論の輪に入らず、ずっと頬杖をついて私を見つめていた。

 その瞳は、凪や大樹くんの騒ぎなんてどうでもいいと言わんばかりに、冷たく凪いでいる。


 「……茉莉子ちゃん」


 不意に名前を呼ばれた。

 心臓がドクンと跳ねる。


 「君、静かだね」


 レオさんが目を細めた。

 

 「大樹くんと凪くんが争ってるのに、一言も発しない。……まるで、どちらが勝ってもいいと思ってるみたいだ」


 「えっ……そ、そんなことないです。私、わからなくて……」


 「本当に?」


 レオ様の声の温度が下がる。

 

 「君の『わからない』は、演技に見えるよ。……心理学的に、人は嘘をつくとき、無意識に口元を隠すか、視線を固定する。今の君みたいにね」


 バレている。


 この男、最初から議論なんてどうでもよくて、ただ「私」の反応だけを観察していたんだ。

 恭弥を吊った時の私の誘導も、今の沈黙も。

 「嘘つき」だからこそ、「嘘」に敏感な嗅覚。


 「ねぇ、シンデレラ。……君が人狼なんじゃない?」


 レオさんの言葉に、凪と大樹がピタリと止まり、私を見た。

 空気が凍る。


 絶体絶命。


 ここで私が少しでも動揺を見せれば、レオさんは確信を持って私を吊りに来る。

 凪も、面白がってレオさんに乗るかもしれない。


 どうする?

 否定する? 泣く?

 いいえ、それじゃレオさんには通じない。


 ……なら、利用してやる。


 私は震える手を隠し、ガタガタと音を立てて立ち上がった。

 そして、あろうことか、一番パニックになっている大樹の太い腕にしがみついた。


 「大樹……ッ!」


 「えっ、ま、茉莉子ちゃん!?」


 「怖い……! レオさん、私をハメようとしてる……!」


 涙声で訴える。

 大樹の顔がみるみる赤くなる。吊り橋効果も相まって、彼は私を「守るべき対象」と認識したはずだ。


 「お、おう! 大丈夫だ! 俺が守る!」


 「……私、わかっちゃったかもしれません」


 私は大樹の陰から、ゆっくりと凪を指差した。

 レオさんの疑念を晴らすのではなく、論点を強引に「占い師 vs 霊媒師」に戻すのだ。


 「……凪が、嘘をついてるんじゃ……?」


 「は? 俺?」


 凪の余裕の笑みが消える。


 「だって……霊媒の結果なんて、凪しかわからないし。……本物の占い師の大樹を陥れようとしてるんじゃ……」


 論理のすり替え。

 「ポンコツな真実(大樹)」を擁護し、「正しい真実(凪)」を嘘で塗り固める。

 騎士がいない今、この場を制するのは「論理」ではなく「情動」だ。


 「へぇ……」


 凪が目を細めた。

 獲物を狙う肉食獣の目だ。


 「茉莉子さん、言いますね。……レオさんの言う通り、化けの皮が剥がれてきてるんじゃないですか?」


 凪がテーブルに身を乗り出し、私に顔を近づける。

 威圧感。

 普通の女子なら泣き出す距離だ。


 でも、私は引かない。

 一瞬だけ、表情筋を緩める。

 恐怖の演技を捨て、素の――ゲーマーとしての冷徹な眼差しを、凪の瞳の奥に突き刺した。

 

 「……証拠は? どこにあるの?」


 「!!」


 凪が息を呑んだ。

 その一瞬の動揺が、勝敗を分けた。


 「投票の時間です」


 アカネちゃんの声。


 「俺は茉莉子ちゃんを信じる! 凪、お前が黒だ!」


 大樹が叫ぶ。(投票:凪)


 「私も、凪が怪しい……」


 私も凪を指差す。(投票:凪)


 「……ははっ、やられた」


 凪は乾いた笑い声を上げ、私を指差した。(投票:茉莉子)


 そして、レオさん。

 彼は私と凪を交互に見て、楽しそうに目を細めた。

 私の演技(嘘)を見抜いた上で、その「面白さ」に一票を投じるかのように。


 「……バイバイ、凪くん」(投票:凪)


 追放者:雨宮凪。


 これで残りは三人。

 私(狼)、大樹くん(真占)、レオ様(村)。


 まだゲームは続く……と、大樹は思っているだろう。

 今夜、私がレオさんを噛めば、明日の朝には二人きり。

 人狼の勝利条件確定だ。

 

 「えっと……ゲーム、終了です」


 アカネちゃんが告げる。


 「え? なんで? 俺たちの勝ち?」


 大樹がキョトンとしている。

 まだ状況が飲み込めていないらしい。


 「いえ……人狼の勝利です」


 「え? え? 誰が?」


 彼が左右を見回す。

 レオさんは静かに微笑んでいるだけだ。


 私は、ゆっくりと顔を上げた。

 さっきまでの「か弱い令嬢」の仮面を脱ぎ捨てる。

 そこに浮かぶのは、獲物を食らい尽くした後の、満足げな悪魔の微笑み。


 「だーいき」


 私は艶然と微笑みかけた。


 「守ってくれて、ありがとう♡」


 「へ……?」


 「おかげで、美味しくいただけました」


 私はテーブルの上のキャンドルを、フッと息で吹き消した。

 ふわりと煙が立ち上る。

 暗闇の中で、私の声だけが響く。


 「ごちそうさまでした」


 明かりが点けられると、そこには石化した大樹の姿があった。

 

 「……ゾクッとした。完敗ですね」


 退場席の凪が、悔しそうに、でもどこか嬉しそうに呟く。

 ユンジンと恭弥は、「やれやれ、最初から手玉に取られていたか」といった顔で顔を見合わせている。


 そして、レオさん。

 彼は立ち上がり、私の耳元で囁いた。


 「……ははっ、最高のショーだったよ。共犯者さん」


 ……疲れた。


 私は脳内のHPバーを確認した。残り1ミリだ。

 でも、勝った。

 男たちの心理を読みきり、支配し、勝利した。


 ふと、GM席のアカネちゃんを見た。

 彼女は、頬を紅潮させ、熱っぽい瞳で私を見つめていた。


 私女にもモテるのか?



 

【明菜先生の研究メモ】


被験者データ No.002

氏名: 九条茉莉子

役職: 人狼(最強の演技派女優)

戦績: 完全勝利(MVP)


獲得スキル:

【悪魔の微笑み】: 獲物を食べた後に発動。魅了と恐怖を同時に与える。

【論理のすり替え】: 感情論で場を支配する、女の武器。


明菜の分析ログ:


ブラボー! お見事!

アンタ、やっぱり才能あるわよ。「か弱い令嬢」の皮を被った「捕食者」の才能がね。

流石アタシが見込んだ女ね♡

 

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