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勇者を動かすための、不純で正しい会議

 あれから十日ほどが経過した。

 人という種族はどうやら適応力が高いらしく、日常を求めていた優一は、日常を破壊してきた存在たちに少しずつ馴染みつつあった。


 状況は大きく変わらない。

 姉がいなくなれば家事が回らなくなると思っていたが、リルとジルと三人で当番制にしたことで意外とどうにかなっている。

 登下校もほぼ一緒。クラスにも自然と溶け込み、外から見ればごく普通の高校生活だ。


 ――で、糞勇者はどうしたのかって?


 抹消した。

 と言いたいところだが、もちろんそんなことはできない。


 優一の記憶では、ダラクとは最初の一件以来ほとんど顔を合わせていない。

 干渉もしたくない。

 だが、プリンの恨みは忘れない。

 忘れるわけがない。オボエテイロ。


 あの日、優一は一時的に記憶を失った。気づいた時には地面に伏せ、ジルとリルに取り押さえられていたのだ。

 その後もダラクは優一の留守中に冷蔵庫を漁っていたが、さすがに優一の態度を見かねたリルが解決策を提示した。


 ――ダラク専用冷蔵庫の設置。

 中身は、彼が好みそうなものを常時補充。


 力技だが、効果はあった。

 歯車は一応、回っている。


 だが、それを良しとしない者がいた。


「……何とかせねば」


 そう、優一である。


「このままじゃ、目的は達成できない」


 席に座り、独り言のように呟く。

 焦りの原因は一つ。勇者ダラクの停滞だ。


 リルの話によれば、ダラクの中には『勇者の印』が眠っており、それが目覚めて初めて真の勇者になるらしい。

 だが今のダラクはどうだ。食べて、寝て、棺に戻るだけ。


 このままで覚醒するわけがない。


 時間が経てば、リルたちはこの世界に完全に馴染む。

 そうなれば――詰みだ。


「……よし、決行するか」


「あんた、最近ちょっと気持ち悪くない?」


 隣の席の月野が、顔を引きつらせて言った。


「いや、うん」


「で、どうなの。あの子たち」


 月野の視線の先には、クラスメイトに囲まれているリルとジルがいた。


「どうって?」


「一緒に暮らしてるんでしょ」


 言葉に詰まる。

 外国人との刺激的な共同生活――そう思われているのだろう。

 実際は、生ごみ勇者が付属してくるだけなのだが。


「普通だよ。むしろ息苦しい」


「あー、文化の違いね」


「……まあ」


 月野は一度だけ優一を見て、こう言った。


「余計なお世話だけど、気をつけな」


 チャイムが鳴り、会話は終わった。


 放課後。

 今日はまっすぐ帰らず、優一はリルとジルを誰もいない教室に呼び出した。


 夕焼けが差し込む中、三者面談のように机を並べる。


「……また、何かやらかしましたか?」


 不安そうなリルに、優一は首を振る。


「違う」


 机を叩く。

 二人の身体が跳ねる。


「このままでいいと思っているのか。勇者ダラクは成長しているのか。魔王が復活するまで、ただ待つつもりか」


 言葉を選びながら、核心を突く。


「魔王復活……」


「オォ……」


 食いついた。


「俺も腹を決めた。勇者の覚醒を、手伝う」


「本当ですか!?」


「ああ」


 優一は厳しい顔を崩さない。


「早く世界を救ってもらいたい」


 リルの瞳が輝く。


「じゃあ、どうします?」


「……まずは、場所だな。ダラクに聞かれない場所――」


「部活を作りましょう!」


 リルが勢いよく手を叩いた。


「部活?」


「青春です!」


 純粋な笑顔に、鬼の心が揺らぐ。


「名前は何にしましょう!」


 机に叩きつけられた設立書類を前に、優一は深く息を吐いた。


「……名前、か」


 勇者覚醒計画は、思わぬ方向へと動き出すのだった。

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