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非日常は、更なる非日常へ

 学校に着いた瞬間、優一の身体を襲ったのは、すでに放課後のような疲労感だった。

 重たい足取りで教室の扉を開け、そのまま静かに席へと落ち着く。


「どうしたの、日向」


 隣の席から名字で呼ばれる。

 優一はナメクジのように机にへばりついたまま、月野の方へ顔を向けた。


「あー……ちょっと家でごたごたしててさ」

「そうなんだ。わたしも色々あって眠いわ」

「月野はいつも眠そうだけどな」

「まあ、ね」


 苦笑いを浮かべる月野。

 そんな他愛ない会話の直後、校内にチャイムが鳴り響いた。


 すべての授業が終わり、教室には一気に活気が戻る。

 遊びに行く者、バイトへ向かう者、部活に急ぐ者。

 学生にとって苦痛な時間が終わったことで、誰もがどこか楽しそうだった。


 ――昨日までなら、俺も同じだったはずだ。


 だが今は違う。

 立ち上がって家に帰ることすら億劫だった。

 なにしろ、休まる場所がなくなってしまったのだから。


「よっこらしょ。じゃ、今日も一日頑張りますか」

「もう終わったばかりだろ」

「それでも頑張るの」


 バッグを肩に掛けた月野はそう言って、教室を後にする。


「……俺も帰るか」


 ここに残っても時間を無駄にするだけだ。

 帰り道でバイトでも――と一瞬考えたが、そこまでの気力は残っていなかった。


 結局、自分の居場所は家しかない。

 そう思うと、少しだけ胸が痛んだ。


 玄関を開けた瞬間、違和感に気づく。

 いつも迎えてくれる静寂がなく、代わりに自室から話し声が聞こえてきた。


 階段を上がり、扉を開けると、最初に目に入ったのはリルだった。

 ミニスカ魔法使いの服姿で、コントローラーを握っている。


「あ、おかえりなさい。優一さん」

「お、おう……ただいま」


 どうやら、階段から落ちた件は無事だったらしい。


 隣には勇者の盾・ジルも同じようにコントローラーを持っている。


「……何してるんだ?」

「ゲームです」


 即答だった。


「この世界の娯楽を学ぼうと思いまして。今は私が勇者となり、復活した魔王を倒す物語を体験しています」

「めちゃくちゃ楽しんでないか?」


 画面を見ると、セーブデータは新規。

 プレイ時間は八時間。


「ずっとやってたな?」

「はい」


 即答二回目。


「そういえば、お前たちの世界の魔王ってどんなやつなんだ?」


 純粋な疑問だった。

 ゲームや漫画の中でしか知らない存在が、現実にいる世界。その魔王とは何なのか。


「恐ろしい存在です」

 リルは真剣な表情で語り出す。


「世界中を恐怖に陥れ、凶暴な魔物を生み出す存在。復活したばかりで完全ではなかったので、今が倒し時だったんですが……」

「ですが?」

「ダラク様が倒すのをやめました」

「は?」


「性格的に、面倒だったそうです」


 勇者とは。


「それで平和に最初の街で暮らしていたら、魔王が幹部を送り込んできたんですよ!?」

「そりゃ来るだろ」


 むしろ妥当だ。


「で、倒したのか?」

「会話して帰っていきました。きっとダラク様の覇気に怯えたんですね!」

「それ絶対違う」


 どう考えても違う。


「……一応聞くけど、まだ魔王は健在なんだよな」

「はい。でも、ダラク様がこちらを気に入ってしまって」

「察した」


 リルの視線が襖へ向く。


「覗いてもいいか?」

「どうぞ」


 襖を開けた瞬間、優一は言葉を失った。


 白一色の広大な空間。

 家具も何もない、だだっ広い部屋。


 そして――


「棺?」


 部屋の中央に、巨大な棺が鎮座していた。


 次の瞬間、鈍い音と共に蓋が落ち、一本の手が現れる。


 ――来る。


 身構えた優一の視界で、その手はテーブルへ伸び――


 ポテトチップスを掴んだ。


「……は?」

「あ、ダラク様ですよ」

「お前かよ!!!」


 緊張が一気に崩壊する。


「ダラク様、寝ながら食べちゃダメですよ」

 リルが注意すると、棺の蓋が再び閉じた。


「あれが勇者?」

「はい。尊敬する勇者様です」


 満面の笑みで言われると、何も言えなかった。


「なんで棺で寝てるんだ?」

「睡眠妨害を防ぐためです。棺なら戦闘を回避できますから」

「最低か」


 そんな勇者、世界に必要だろうか。


「伝言があります」

「まだあるのか」

「人の家でタンスを漁るのはどうなのか、と」

「殴らせろ」


 ジルに止められた。


「もう一つ。妃さんからです」

「姉さん……」


「海外に行くので、私たちをよろしく、と」

「……あの女」


 すべてを理解した優一は、深くため息をついた。


「……気晴らしに、空中デートでもしませんか?」

「……は?」


 太陽のような笑顔のリルを前に、

 優一の世界は、さらにズレ始めていた。

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