断捨離
「ありがとうございます。では優一さん。
だからこのゲームを“プレイ”あるいは“操作”と呼ぶのでしょうか。ダラク様の操作が、まったく利かなかったと思います」
「ああ、確かに。俺の操作、何一つ反映されなかったな」
「それは、わたしたちに意志があるからです。外部からの操作が利かないのです」
リルの言葉をすべて信じるなら、確かに筋は通っている。
「もっとも、優一さんが眠っている間に魔法でこの世界と“ゲーム”について調べた結果からの推測ですが。
ですので、このゲームが何なのかと聞かれても、残念ながらお答えできません」
「……なるほど」
「ただ一つ分かっているのは、わたしたちはあなたと同じように“生きている”ということです」
頭の中で情報を整理する。
俺が拾ってきたこのゲームは、そもそもゲームかどうかすら怪しい。
もしかすると、リルたちの住む世界とこちらを繋ぐ“ゲート”のような役割を果たしている可能性もある。
そして、この三人は何らかの事情で、俺がゲームを起動したその瞬間を利用して、こちらの世界へやって来た。
「じゃあさ。なんでお前たちは、こっちの世界に来たんだ?」
「ええ。タイトルにもなっていますが――」
「ほう」
「復活した魔王を倒すため、わたしたちは世界を旅しているのです」
「なるほど、王道だな」
「魔王は圧倒的な武力で世界を支配し、魔物を生み出して軍隊を作り、人々を苦しめています」
「で、倒したのか?」
「いいえ」
「……ん?」
「というか、会ったこともありません」
「なんでやねん!」
満面の笑みで当然のように言うリルに、思わず関西弁が飛び出した。
「だって、めちゃくちゃ強いらしいですよ。それに――」
リルの視線が、隣でイビキをかいて眠る男に向く。
勇者・ダラク。
鼻提灯を浮かべ、実に幸せそうだ。
「……待て。俺の操作を拒絶してた原因、もしかしてこいつか?」
リルは無言で頷いた。
よく見ると、ダラクは完全にくつろいでいる。
時折、尻をポリポリ掻くその姿に、勇者の面影は一切ない。
というか――ニートだ。
「まあ、その……ダラク様が一切やる気を出さなくてですね」
「は?」
「わたしたちはダラク様付きですので、逆らえませんし。意見は尊重したいと考えています」
嫌な予感しかしない。
「なので、異世界へ行ける機会ができた際、ダラク様がこう言いました」
リルは一呼吸置いて、
「『世界救うのメンドイから、楽して過ごせそうな世界に行こうぜ』と」
パン、と手を叩き、話は終わりと言わんばかりの表情。
「いや何一つ解決してないし!
勇者不在の王道RPGに残るの、絶望だけだよね!?」
そう言いながら視線を向けると、盾を背負った男・ジルがベッドの下を覗き込んでいた。
「オォ……オォ……」
どう見ても、男子高校生必須アイテムを探している動きだ。
とりあえず蹴った。
勇者の盾を持つ男は、一般人の蹴りで沈黙した。
「あはは……すみません」
苦笑するリル。
「それで、しばらくここに置いてもらえないでしょうか?
異空間を作りますので、部屋は分けます」
平凡で刺激のない日常。
ループするような毎日。
そんな俺の前に現れた、明らかに関わると面倒な存在たち。
――人生が変わる、かもしれない。
そう思った時間、約一秒。
「うん。無理」
即答だった。
「えっ!? ダラク様が飽きるまででいいので!」
「無理」
「魔法でお役に立てるかも――」
「無理」
「えっと、えっと――」
「無理なものは無理!」
バタン。
扉は容赦なく閉じられた。
外では勇者が立ったまま寝ており、盾の男は叫び、魔法使いは扉を見つめていた。
階段を上がりながら、俺は思う。
――関わったら、ろくなことにならない。
だから慈悲は捨てることにした。




