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灰の先に、まだ日常は続いている

 因縁の相手は、余韻など残さなかった。


 灰が散るように、あっという間に一つ眼の残骸は消えていく。


「倒した、の」


 月野は呆然と呟いた。

 目の前で起きた現実を、すぐには受け止めきれない。


 けれど次第に理解が追いつき、胸の奥をくすぐる感情が込み上げてくる。


「やった。やりましたよ。ねえ!」


「え、ええ」


「危なかったな。危うく死ぬところだった」


「全くですよ。ジルさん。本当に危なかったですよ! けど、良かったです。皆無事で」


 リルとジルが隣で嬉しそうに言葉を交わす。


 月野はただ、一つ眼がいた場所を見つめていた。


「何ボーっとしてるんですか〝月野〟。わたしたち勝ちましたよ! あははは!」


 背後からリルが抱きつく。


「べ、別にしてないわよ。そんな喜ぶことじゃないわ」


「とか言って、涙出てますよ」


「で、出てないわよ」


 目元を乱暴に拭い、


「いい加減なこと言ってると、シバくわよ、〝リル〟」


「っふ。やれるものなら――あ、あれって優一さんじゃないですか!?」


 視線の先には優一。


 その背中で眠るダラクの姿を見つけ、リルとジルは駆け出した。


 月野はその背を見送り、もう一度、灰が消えた場所へ視線を戻す。


 何もない。


 本当に、何も。


 ――そっか。本当に倒したんだ。


 もう、あの日に囚われなくていい。


 お母さん、お父さん、みんな。

 わたし、やったよ。仲間と倒せたよ。


 これでやっと、前に進める。


 月野は静かに笑みを零した。


 その笑顔は、どこか軽かった。


 ※


 いつもの朝。


 目覚めがいい。

 夜中の用事がなくなったからだろう。


 優一は伸びをし、欠伸をしながら階下へ降りる。


「おはようございます」


「ご飯、出来てるぞ」


 味噌汁を啜るリル。

 見事な包丁さばきで朝食を整えるジル。


「あーはいはい」


 制服に着替え、席に着く。


「あれから一週間が経ちましたが、やっと落ち着いた感じですね」


「だな」


「そろそろダラク様に――」


「ダメだ。プリンは二日に一個にしとけ」


 プリンを取り上げられた日から、ダラクにはしばらくの記憶がないらしい。


 魔王との戦いも、『勇者の印』が現れたことも覚えていない。


 ただ一つ変わったことがある。


 ダラクが優一を、異様なまでに嫌っている。


 どうやら“好物を奪う天敵”と認識されたようだ。


「とにかく学校に行くぞ。遅刻する」


 三人は朝食を終え、ゴミクソ廃人勇者を置いて家を出た。


 ※


 教室。


 自分の席に座り、隣を見る。空席。


 リルとジルとは教室ではあまり話さない。

 この時間だけが、優一にとって“元の日常”だ。


 授業前、トイレへ向かう途中。


 すれ違うのは、勇者公正部の顧問――デビルーズ・カイザー。


 魔王であり、友人であり、超が付く常識人。


 学校では研修生と生徒。

 目配せだけ交わし、通り過ぎる。


 あの日以降、二人はよく集まるようになった。


 未来のための作戦会議。

 愚痴の共有。


 気づけば、誰よりも気の合う相手になっていた。


 席へ戻る。


「おはー」


 隣に鞄が置かれ、椅子が引かれる。


「おう」


「今日は余裕ね。用事ないと早く寝れて楽だわ」


 優一は前から抱えていた疑問を口にした。


「あのさ。お前なんで居るの?」


「え、なんで?」


「あいつ倒したら消えるとか言ってなかった?」


 月野は、一つ眼を倒せば姿を消すと言っていた。


 だから優一は召喚作戦を組み込んだ。


 結果、一つ眼は倒した。

 だが――月野は消えなかった。


 普通に、翌日から登校している。


 違いがあるとすれば、眠そうじゃないこと。

 遅刻しないこと。

 たまにリルと出かけていること。


「なに、居なくなって欲しかったの?」


「いや、そんな事ないですよ」


 月野は肩をすくめる。


「まあね。あいつらに助けられた借りもあるし。それ返すまでは残ろうかなって。一つ眼が消えてからシビトも出なくなったけど、いつ現れるかわからないし。だからもう少しだけここに残る。どう?」


「どうって……いいんじゃないか。うん」


「良かった。今日放課後リルと遊ぶけど、あんた来る? ジルも誘って」


「あー、まあいいか。分かった」


「ん。じゃあ決まりね!」


 色々あった。


 死にかけて、戦って、泣いて。


 それでも。


 もう少しだけなら、この生活も悪くない。


 優一は小さくため息をつきながら、今日もまた“非日常という名の日常”を過ごすのだった。

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