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魔王降臨、勇者暴走

 ――運命の時が来た。

 

 闇が空を支配する。

 月は雲に隠れ、灰色の塊が強風に押されてせわしなく流れていく。


 日付が変わって数分。


 優一のスマホが震えた。


「駅前に来て」


 月野の声は短い。

 だが切る気配がない。


 沈黙の向こうに、嫌な予感が滲んでいる。


「今日は、なんだか嫌な感じがするわ。頑張りましょう」


 言い逃げるように通話は切れた。


 優一は小さく息を吐き、背後の二人を見る。


「じゃあ、行ってきます」


 リルが敬礼する。


「無理はするな。魔王に手を出すな。何かあったら――」


「分かってる。月野を頼んだ」


 天井を見る。


 その上にいる“廃人”へ向けた視線。


 二人は深く頷き、夜へ消えた。


 扉が閉まる。


 家の中には、優一と勇者だけ。


 優一はスマホを取り出し、魔王へ連絡した。



 決戦の日。


 魔王にとってもまた、非日常だった。


 勇者を探しに来た世界で、ただの少年と協力関係を結ぶなど――過去の自分が見れば失笑するだろう。


 だが優一とは奇妙に気が合った。


 共通の“被害者”という絆。


 そして初めて芽生えた、友情という感情。


 それも今日で終わる。


 スマホが鳴る。


『ああ。幸運を祈る』


 通話を終え、魔王は人間の姿を解いた。


 白銀の髪。

 巨大な角。

 人の枠を超えた体躯。


 夜の住宅街へ飛び出す。


 小さな魔力が二キロ先で揺れている。


「さて」


 空間魔法を展開。

 被害遮断のための結界。


 さらに、優一へ強化魔法を飛ばす。


 最後に――


 魔力を解放した。


 空間が軋む。


 大気が悲鳴を上げる。


 それは魔王にとって、準備運動。


 運命の歯車が、動き出す。



「来たッ!」


 優一の身体が軽くなる。


 筋肉が目覚める。

 跳躍すれば天井に頭をぶつけた。


(いける)


 冷蔵庫を開ける。


 四重の袋。

 六重のジップロック。


 厳重警備のプリンを解放する。


 甘い香り。


 普通の人間には届かない距離。


 だが――


 棺のうめき声が、止んだ。


 沈黙。


「不気味だ……」


 次の瞬間。


 ダダダダダダダッ!!


 何かが駆ける音。


 振り向いた時には、扉が粉砕されていた。


 立っていたのは――勇者。


 ぼさぼさの髪。

 しわくちゃの衣装。

 唾液で汚れた口元。


 だが、目だけが違う。


 獣。


 理性が削げ落ちた猛獣。


「プリン……」


 低い声。


「プリン!!!!」


「うわああああ!?」


 片手で壁が砕ける。


 優一は全力で外へ飛び出した。


 背後から迫る、勇者という名の捕食者。



「今日は日向は?」


「やることがあるそうです」


「は? 殺すわよ」


 月野が舌打ちする。


 その瞬間。


「「「――ッ!?」」」


 世界が潰れる。


 立てない。


 息ができない。


 月野が嘔吐する。リルも崩れる。


「……魔王、だな」


 ジルが歯を食いしばる。


 重圧。


 絶望。


 だが次の瞬間――


 地面の影が動いた。


 黒い人型。


 顔の中央に巨大な眼球。


「一つ眼……!」


「ケケケケケ」


 強い魔力の方向を向く。


 月野を無視し、歩き出す。


「待ちなさい!」


 届かない。


 だが――


 ゴン、と何かにぶつかった。


 同時に、巨大な空間魔法が展開される。


「なにこれ!?」


「高度な結界だ!」


 圧が消える。


「外部と切断されたみたいですね」


 一つ眼が暴れる。


 だが壊れない。


 月野が立ち上がる。


「関係ないわ。倒す」


 全力の魔法を叩き込む。


 閃光が夜を裂いた。

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