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決行前夜、地獄の一週間と最後の一個

 さらに一週間が経過した。


 学校。

 シビト退治。

 暴走寸前のリルの監視。

 そして真夜中、棺から聞こえる勇者のうめき声。


 地獄だった。


 優一の神経は、とうに擦り切れている。


 定期的に魔王が電話越しにメンタルケアしてくれなければ、確実に崩壊していた。


 だが、地獄を味わっているのは優一だけではない。


 ――勇者一行も同じだった。


 プリン没収から一週間。


 ダラクは毎晩、棺の中で呻いている。


「……ぷりん……」


 その声に、優一は何度も心を刺された。


 冷蔵庫を開けても無い。

 リルに頼んでも出ない。

 あの、舌の上で溶ける至高の甘味は、どこにも存在しない。


 追い打ちとして、優一は冷蔵庫の電源を切った。


 食材は毎日使い切り。

 保存ゼロ。


 家から“食”という概念を消した。


 唯一の行動理念を奪われたダラクは、目に見えて衰弱した。


 それを見て、何も思わない仲間はいない。


 特にリル。


 隙あらばコンビニへ走ろうとする。

 晩飯をくすねて棺へ忍ばせようとする。

 最悪、作戦の全貌を告げようとする。


 その度に――


「リル、止まれ」


「ひゃっ!?」


 ジルが止める。


 コンビニ未遂三回。

 食料横流し未遂二回。

 作戦暴露未遂一回(気絶処理)。


 戦犯は明らかだった。


 だが同時に、ジルの安定感は予想以上だった。


(……助かった)


 もし優一一人なら、計画は三日目で瓦解していた。


 そして迎えた、決行当日。


 全員のコンディションは、皮肉なほど整っている。


「今日が決行日、か」


「何か言いました?」


「ああ、いや。今日のシビト退治、俺は少し外れる。お前たちは何があっても月野から離れるな」


「どうした、優一」


 ジルが真っ直ぐに見る。


「今日、全部終わる」


「その自信はどこから来る?」


 鋭い。


 ここで濁すのは悪手だ。


 優一は口を開いた。


「以前、魔王と遭遇した。次に現れる日を告げられた。それが今日だ」


「え!?」


「何故そんなことを……」


「分からない。だが、魔王を倒すにはダラクの覚醒が必要だ。焦らせたくなかったから黙っていた」


 二人は黙る。


「で、わたしたちはなぜ月野と?」


「魔王が本気を出せば、強い魔力が溢れる。強いシビトが現れる可能性が高い。――一つ眼の個体もな」


「!」


 リルの瞳が揺れる。


「だからサポートに回れ。邪魔はするな。でも死なせるな」


 短い沈黙。


「……不本意ですが、貸し一つですよ」


「任せろ」


 これで盤面は整った。


「で、お前は?」


 優一はレジ袋を掲げる。


 中身は――プリン。


 たった一個。


「これで覚醒させる」


「禁じたはずだが」


「ああ。だからこそ、だ」


 限界まで焦らした欲。


 そこへ、たった一つの救い。


 そして――魔王。


「かなり危険だぞ」


「任せろ。全部作戦通りだ」


「……ダラク様ほどではありませんが、少しだけカッコいいです」


「それは余計だ」


 二人と別れた優一は、ひとり歩き出す。


 スキップ混じりに。

 震える指でスマホを取り出し、発信。


「魔王さん。今日はよろしくお願いします」


『ああ。互いの輝かしい未来のために』


 通話が切れる。


 優一は、棺のある部屋の前で立ち止まる。


 中から聞こえる、かすれた声。


「……ぷりん……」


 レジ袋を握る手に力が入る。


「待ってろよ、勇者」


 地獄は終わる。


 今日で。

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