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甘やかし十日間、そして禁断の没収宣言

 大量のプリンを抱えて帰宅した優一を見て、リルとジルは同時に固まった。


「え、どうしたんですか、それ……」


「っふ。優一よ。それはダラク様がこの世で最も愛する至高の甘味ではないか。ついに気付いたのだな。ダラク様の魅――」


「違う。俺の計画……じゃなくて、あいつを覚醒させるための段取りだ」


「「どういうこと?」」


 優一はプリンをテーブルに並べながら言う。


「これをあいつに食わせる。好きな時に好きなだけ出せるようにしてやる」


「は、はあ……?」


「俺の推測だが、ダラクの覚醒は“本人の意志”に強く依存してる。普通、勇者ってのは“世界を救いたい”とか“魔王を倒したい”とか、強烈な想いで覚醒するだろ?」


 リルが頷く。


「確かに。わたしのやったRPGもそんな感じでした」


「でもあいつには伝説の剣も聖地もない。なら残るのは“欲”だ」


「……それがプリン?」


 ジルが腕を組む。


「あいつの最大の欠点は、欲が薄いことだ。魔王が現れても、月野が現れても動かなかった。でも――」


 優一は指を立てる。


「食事だけは別だ」


 棺から出ない勇者。

 ただし空腹時のみ例外。


 もはや都市伝説ではなく“ダラク伝説”である。


「つまり……プリンで覚醒を?」


「そうだ。徹底的に食わせる。依存させる。身体を“プリンのある日常”に慣らす」


「そして?」


「ある日、全部取り上げる」


 二人が同時に息を呑む。


「ダラク様のことだ。発狂する可能性はあるな」


「予測不能ですね……」


 優一は頷く。


「あいつは我慢を知らない。甘やかされてきたからな」


 二人がピクリと反応した。


「そこで“我慢”という感情を叩き込む。怒りでも焦りでもいい。とにかく強い感情の波を起こす。そこへ――魔王の登場だ」


「なるほど……」


「勇者と魔王の定義。『大切なものを奪われる』か『守る』か。今回はそれをプリンで代用する」


 自分で言っていて頭が悪い。


 だが――


「凄く考えられてますね」


「希望はあるな。流石だ、優一」


 まさかの絶賛。


 優一は一瞬フリーズした。


「で、でも魔王の登場って上手くいくんですか?」


「そこは問題ない。段取りは済んでる」


 そして優一は核心を告げる。


「この作戦はお前たちの協力が必須だ」


「「というと?」」


「甘やかすな」


「え、してませんよ?」


「問題ないと思うが?」


「お前らも致命的だ」


 頭を抱える。


「世間一般ではそれを過保護と言う。今回は裏切りなしだ。ダラクのためを思うなら俺に従え」


 二人の表情が引き締まる。


「まず、没収までは今まで通り与え続ける。補充は俺がやる。泣きたいけどやる。で、本番は没収後。どんなに懇願されても渡すな。贅沢な飯も禁止。距離も置け。極限まで追い込む」


「高難度の試練ですね……」


「だが必要なのだな」


「そうだ。これはお前らの試練でもある。仲良しごっこか、本物の仲間か。答えを出せ」


 わざと煽る。


 ジルが一歩前へ出た。


「やる。俺はダラク様の盾だ。更なる高みがあるなら、その土台になる」


「ジルさん……わたしもやります! ごっこじゃないです。わたしたちは仲間です!」


 よし、釣れた。


「決まりだな。まずは甘やかそう。その後は覚悟を忘れるなよ」


「はい」「ああ」


 こうしてプロジェクトX第一段階は始動した。


甘やかし期間・十日間


 結果。


 怪しまれるどころか、ダラクは秒で食いついた。


 目の前の餌に群がる魚の如く。


 十日間で消費したプリン、二十個。


 ほぼ優一の出費。


 今月の自由資金、壊滅。


 なお、魔王がこっそり数個差し入れてきた。いい人である。


 シビト討伐も順調だった。

 交代制の魔力解放。

 強敵との戦闘。

 二人の成長は目に見えて加速。


 そして――


「プリンも尽きた。甘やかし期間終了だ」


 優一は宣言する。


「ここからが本番だ。“仲間”かどうか、示してくれ」


「ま、任せてください……!」


 ジルは揺るがない。


 問題は――


 隣の魔法使い。


 声が震え、目が泳ぐ。


 母性と使命が、内部で激突している。


(……リル、裏切るなよ)


 優一は小さく息を吐いた。


 いよいよ。


 没収作戦、開始。

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