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プロジェクトX始動

 ジルの予測は正しかった。


 シビト出現地点に到着した優一たちの視線を奪ったのは――大型個体。


 普段の個体より二回りは大きい。

 筋肉質な体躯。立っているだけで分かる圧。


 速さも、戦闘能力も、明らかに格上。


 優一は即座に理解した。

 以前、魔王の出現に引き寄せられた個体と同格――いや、ほぼ同等。


 あの時は、月野が全力でも届かなかった。


 だが、今は違う。


 前衛にリル。

 後衛に月野。


 すでに通常個体との戦闘を終え、疲労はあるはずだ。それでも――


「終わりです!!」


「あああああああ!!!」


 リルの魔法に、月野が増幅を重ねる。


 閃光が夜を裂き、巨体が崩れ落ちた。


 戦闘時間、約十分。


 無傷ではない。

 何度も危険はあった。


 だが、月野の指示、リルの火力、ジルの防御。

 誰一人欠けることなく勝利した。


「勝てた……確実に強くなってる」


「見ました!? わたし活躍しましたよ!」


 月野の口元に滲む笑み。

 リルの満面の誇らしさ。


 ――成長。


 実験は成功。

 コンディションは最高。


 これで決行できる。


 プロジェクトX。


――作戦概要。


 大好物を餌にターゲットαを外へ誘導。


 孤立させ、魔王と遭遇させる。

 二人きりの空間を作る。


 魔王の魔力を用いて“奴”を引き寄せる。

 一つ眼のシビト。


 月野の宿命。

 復讐の終着点。


 水を差す可能性のある二名の馬鹿については対処済み。

 言いくるめてターゲットαから引き離し、月野のサポートへ回す。


 月野の感情的発言には一切耳を貸さない。


 後は状況次第で柔軟に対応。


 作戦名――プロジェクトX。

 機密レベル5。


 記録厳禁。確認後即時削除。


 優一はスマホに打ち込み、魔王へ送信。

 直後に削除。


 窓越しの青空を、険しい表情で見上げる。


 着信。


『了解。全て善処する。こちらも削除済み。返信不要』


 小さく笑う。


 頭の中に、成功した未来が浮かぶ。


 勇者は覚醒し。

 月野は宿命を終え。

 魔王は元の世界へ戻る。


 すべてが元通り。


 優一はスマホの電源を落とした。


 その時を待つ。


   ※


 魔王もまた、未来を思い描いていた。


 優一は日常へ戻る。

 自分は勇者の宿敵として本来の役割に戻る。


 本来、交わるはずのなかった存在。


 だが――


 別れは、少しだけ寂しい。


 それでも最後まで支えると決めた。


 澄んだ空を見上げ、静かに息を吐く。


   ※


 あの夜。


 大型個体を倒した瞬間、月野は確信した。


 自分は成長している。


 あの日、手も足も出なかった存在と同格を討った。


 共闘。

 短縮される戦闘時間。

 高め合う関係。


 正体が知られ、日常は壊れかけた。

 だが秘密は守られた。


 最初はリルを恨んだ。

 だが今は違う。


 少しだけ。


 本当に少しだけ。


 この時間が楽しいと思っている自分がいる。


 けれど、それも終わる。


 いずれ自分の魔力は奴を釣れるほどに達する。


 その時が決戦。


 その瞬間――


 思考を止める。


 勝ってから考えればいい。


 拳を握り、月野は未来を待つ。


   ※


 歯車が噛み合い始めている。


 何かを失うかもしれない。

 何かを得るかもしれない。


 体内に眠る何かが目覚めるかもしれない。


 胸騒ぎ。


「腹減った」


 棺の中で勇者ダラクが欠伸をする。


 足元の電話を取り、どこかの誰かの財布から抜いた金で出前を注文。


 ――世界の緊張感が台無しである。


   ※


 放課後。


 優一は寄り道をする。


 自宅近くのコンビニ。


 自動ドアが開き、揚げ物の匂いが腹を刺激する。


 だが目的は別。


 デザートコーナー。


「金、減ってる気がするけど……まあいいか」


 どうせ、なくなる。


 カゴの中には――プリン。


 十個以上。


 しかも最高級。

 一個四百円。


 合計四千円超。


 学生には痛すぎる出費。


 しかも自分用ではない。


 ため息。


 それでもレジへ向かう。


 これは必要経費だ。


 大量のプリンを抱え、優一は家へ帰った。


 ――ターゲットαを釣るために。

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