表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/32

魔王、教師になる

今日は不思議と眠気がなかった。

 扉を開けた瞬間、やけに空気が澄んでいる気がする。


 思わず鼻歌が漏れた。


「何かあったのですか、優一さん?」


 制服姿のリルが鞄を持ち直しながら首を傾げる。


「いや、別に」


「しかし最近平和だな。リルの実力も伸びてきている。そろそろ次のステップに行くべきかもしれん」


「「次のステップ?」」


 ジルの言葉に優一とリルが同時に反応する。


「今のように手慣れたシビト退治ばかりでは限界がある。より強い個体と戦う環境を作れれば、成長は加速するはずだ」


 優一は顎に手を当てる。


「理屈は分かる。でもどうやる? 俺たちは出てきたシビトを倒してるだけだろ」


「月野が言っていただろう。シビトは魔力に寄ってくる、と」


 ジルはリルを見る。


「以前はリルの魔力が弱く、認知すらされていなかったがな」


 リルの頬がぷくっと膨らむ。


「今は違う。魔力を意図的に解放すれば、より強い個体が現れる可能性がある」


「なるほど……」


「一つ訂正を。わたしはあの魔女と互角です」


「……まあ一度、月野に相談だな」


 優一も頷いた。


 ――魔王と結託したことは当然言わない。

 だが、基礎レベルの底上げが鍵なのは変わらない。


   ◇


 教室に着くと、まだ始業前だった。


 爆睡中の月野を起こすのは気が引けたが、早めに聞いておきたかった。


「ん……なに」


 ほぼ寝たままの状態で話を聞いた月野は、


「今夜やってみましょうか」


 それだけ言って再び眠りに落ちた。


 そしてチャイムが鳴る。


「今日から実習生が来ます。仲良くしてあげてください」


 担任の一言で教室はざわめいた。


 扉が開く。


 一歩ごとに視線が上がる。


 二メートル近い長身。

 銀髪。緋色の瞳。整った顔立ち。


「初めまして。デビルーズ・カイザーです」


 流暢な挨拶。


 歓声が上がる。


 ――来た。魔王。


 一瞬だけ目が合う。


 通じる意志。


 優一の提案で、魔王には教師として来てもらった。

 生徒では近すぎる。教師なら適度な距離で観察できる。


 完璧だ。


 月野は一瞬目を開けたが、特に何も感じず再び眠った。


 ……本当に大丈夫か。


   ◇


 休み時間。


「凄くイケメンでしたね」


「ああ。強者の気配はある。だが――」


「「ダラク様には及ばないな~」」


 完全に洗脳済みだった。


 むしろ心配になるレベルだ。


   ◇


 放課後。


「さあ行きましょう! 今日こそ部活動です!」


 リルが目を輝かせる。


 優一は鍵を渡した。


「先に行っててくれ。俺は顧問を呼んでくる」


「こもん?」


 疑問符を浮かべつつも、青春に勝てず去っていく二人。


   ◇


 職員室。


「公正部の顧問がまだ決まってなくて……」


 担任が渋る。


「お願いします!」


 横から魔王が完璧なタイミングで割り込んだ。


「この国をもっとシリタイデス。生徒とカカワリタイデス」


 片言演技、完璧。


 担任陥落。


「何かあれば必ず私を通すように」


「はい」


 成功だ。


   ◇


 特別棟の最奥。


 光の届きにくい廊下を進む。


 部室の前で深呼吸。


 魔王は余裕の表情だ。


 扉を開ける。


 埃っぽい室内。

 中央に机。椅子が並ぶ。


「あ、優一さん。それと――」


「今日から顧問のデビルーズ先生だ」


「よろしくお願いします」


 完璧な笑顔。


 完璧な礼儀。


 宿敵とは思えない。


 リルが優一を隅に引っ張る。


「何ですかあの人! ダラク様の話ができないじゃないですか!」


 ……やはりバカだった。


「顧問いないと部活できないだろ。任せとけ」


 魔王に向き直る。


「この部は公正部です。まずは二人の友人を公正します」


「自分は居ないものと思ってください。様子を見ます」


 演技力、満点。


 事情を全て知っているのに、完璧に知らない顧問を演じる魔王。


「……まあ、いいですか。始めましょう」


 机を囲む三人。


 魔王は壁に背を預け、静かに目を閉じる。


 こうして――


 魔王公認の部活動が始動した。


 勇者公正部。


 その裏で、世界の均衡を揺らす策謀が静かに動き始めていることを、


 まだ誰も知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ