魔王、ファミレスに降臨する
学校帰りということもあり、店内は様々な制服姿の学生で溢れていた。
優一もその景色に溶け込んでいる――はずだった。
頼んだ紅茶を一口飲み、ため息をつく。
目の前に座る存在を視界に入れるたび、緊張で身体が固まる。
周囲の視線が痛い。今すぐ帰りたい。
しかし現実は非情だ。
放課後のファミレス。
その一角だけが、どう考えても異常空間だった。
「でさ、聞いて下さいよ。あいつら、こちら側の事情も気遣いも全部仇で返すんですよ」
「わかる! 何であんなに人間的に欠陥が多いんだろうな」
優一は全力で頷く。
「宿命とか宿敵とか設定とは言え、空気を読んで欲しいですよね」
「ああ、俺なんて勝手にデザート食われるわ、人の財布で特上寿司頼まれるわ……信じられます?」
「えええ!? 本当ですか。それは酷い。我々の世界の者がご迷惑を」
「いえいえ、こちらこそ勘違いしてました」
あはは、と二人は笑い合う。
こんな純粋な笑顔を見せたのはいつぶりだろうか。
優一は久々に心が躍っていた。
――目の前の相手が魔王であることを除けば。
※
一日中、誰にも悟られないように振る舞うのは骨が折れた。
月野は少し違和感を覚えたようだったが、睡魔が勝ったらしい。リルも同様。
だがジルだけは鋭かった。
問い詰められかけたが、なんとか誤魔化す。
そして放課後。
ポケットの紙きれを確認する。
『一人で来い』
昨夜、魔王から渡されたものだ。
罠の可能性は当然ある。
だが不思議と恐怖はなかった。
むしろ――早く会いたい。
指定されたのは、どこにでもあるファミレスだった。
入店した瞬間、すぐに気付く。
銀髪の長身美男。
周囲の視線を一身に集める男。
魔王だ。
しかし昨日とは違う。
今日は完全に人間の姿だった。
「その格好は……」
「ああ。こちらの世界では人間の姿が普通なのだろう? 紛れた方が迷惑にならぬと思ってな」
「そ、そっか」
なんだこの展開イイ!!
何で魔王とファミレスで紅茶飲んでるんだ!?
「ご用件は?」
「ああ、挨拶を忘れていた」
魔王は名刺を差し出す。
『デビルーズ・カイザー』
……ちょっと痛い。
「我は魔王だ。だが勘違いするな。お前の敵ではない。味方だ」
「味方?」
魔王は笑った。
「勇者に苦労しているな?」
心臓を掴まれた感覚。
「どうしてそれを」
「我も同じだからだ」
※
「勇者が最初の街から出ないのだ!」
魔王は机を叩きそうな勢いで語る。
魔王の役目は勇者を育て、最終的に倒されること。
そのために部下を配置し、成長の糧を用意する。
だが――勇者が動かない。
「幹部を最初の街に送ったのだぞ!? 前代未聞だ!」
それでも動かない。
さらには――
「勇者の剣売却事件だ」
「売却事件?」
「ひのきの棒と同じ値段で店に出したのだぞ!? なのに買って転売し、ギャンブル資金にしたのだ!」
魔王の目に光がない。
優一は泣きそうだった。
「魔王さん……俺、あなたの味方です」
固い握手。
友情のハグ。
「同胞よ……!」
こうして二人は固い絆で結ばれた。
※
「あなたの日常を取り戻す手伝いをしよう」
「本当ですか!?」
最強の味方が出来た。
「だが直接勇者に会うのは段取りが悪い。外堀を埋めねば」
優一は思いつく。
「あの……うちの学校に来ませんか?」
「学校?」
「内情を探るなら一番ですよ」
「問題ない。あの魔女の魔力など、我には無いに等しい」
流石魔王。言い切った。
「決まりですね」
「本当に良いのか? お前は向こう側の人間だ」
「関係ないです。俺は今日から魔王さんの味方です」
固い握手。
ファミレスで解散。
優一は晴れやかな気持ちで帰路についた。
最強の仲間が出来たのだから。
こうして、思わぬ形で役者は揃った。
――優一軍、始動。




