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停滞と修行計画

 夜の十時頃。

 何の前触れもなく、優一のスマホが鳴った。


 危うく寝落ちし、そのまま電話の主に永眠させられるところだったが、なんとか起き上がる。

 寝ぼけたまま通話に出ると、いつものように一言だけ指定の場所を告げられ、すぐに切れた。


 相手は月野。

 あまりに一方的なやり取りにも、もはや怒りすら湧かない。


 優一はプログラムされた機械のようにリルたちを呼び、夜の街へと姿を消した。


 約二時間に及ぶシビト退治。

 今回は前回のような特殊個体は現れず、比較的安全に戦うことができた。


 しかし、後半になるとどうしてもリルの魔力切れが響く。

 結果として月野が後始末をする形になり、優一としては申し訳なさを感じずにはいられなかった。


 一つ変化があったとすれば、ジルと連携が取れるようになったことだろう。

 本体が盾のジルは、当然ながら盾(本体)を守りながら戦う。


 人型のジルが盾(本体)を持っているのか、盾(本体)が人型ジルを使っているのか――解釈は未だに混乱するが、厄介なことに変わりはない。


 それでも、常識人で家庭的なジルの存在は、確実に優一の精神安定剤になりつつあった。

 人は見た目では分からない。そんなありふれた言葉の意味を、今さらながら実感する。


 それから約一週間。

 同じような生活が続いた。


 毎日十時から一時の間に月野から連絡が入り、二時間から三時間ほどでシビト退治が終わる。

 一番きつかった日は、朝方四時まで続き、さすがに学校では眠ってしまった。


 この一週間で、いくつか分かったことがある。


 まず、後半戦になるとどうしても月野頼りになるという現実。

 ジルには決定打がなく、リルも魔力切れを起こす。結果、逃げながら耐えるしかない場面が多かった。


 それでも、優一の睨んだ通り、リルとジルにはレベル制が反映されているらしく、確実に成長しているのを感じた。


 ちなみに、あの勇者の存在はもはや優一の頭の中から消え去っている。

 勝手にプリンは食うわ、出前は取るわ。

 一秒でも早く抹殺したいという野望だけが、密かに育っていた。


 そして、もう一つ。

 あの日に現れた大型シビトのことだ。


 月野ですら初見で、苦戦を強いられた個体。

 しかし、あれ以来、同じようなシビトは現れていない。


 思い当たるのは、魔王の登場。

 シビトは魔力によって現れる。ならば、魔王の強大な魔力が、あの異常個体を生んだのだろう。


 つまり――魔王との魔力差は絶望的。

 だが、ポジティブに考えれば、強いシビトが現れた時は魔王が近くにいる証拠でもある。


 多少なりとも、心構えはできる。


 その日もシビト退治を終え、帰宅しようとした時だった。


「ねえ、待って」


「どうした、月野。もう寝たいんだけど」


 ここ最近、学校の成績はガタ落ちだ。

 一秒でも早く眠りたい。


「すぐ終わるから。あいつ――あんたたちが倒さなきゃいけない魔王。あれから姿を見せないわね」


「だな。いいことなのか、悪いことなのかは分からないが」


「あいつ、凄く強い気配がした」


「それはそうですよ。世界を征服する相手ですから」


 リルが腰に手を当て、なぜか誇らしげに言う。

 やはりリルはバカだ。


「ええ。あの時、わたしの本気でも歯が立たなかったシビトを、あの魔王は簡単に倒した」


 月野は下唇を噛み、悔しそうに続けた。


「このままだと、一つ眼の奴に勝てない。それに、あれ以来同じシビトも現れない。わたしの実力不足よ。このままじゃ、何も変わらない」


 最近の月野が何かを抱えているのは、優一も感じていた。

 それは、自分と同じ――現状への不安。


 圧倒的な格上の存在を前に、自信が崩れ落ちたのだ。


「だから、修行をしようと思うの」


「勝手にすればいいじゃないですか! いちいち言わないでくれません?」


 リルが頬を膨らませ、強めに言い返す。


「違うの。一緒に修行しましょう、って言いたいの!」


「一人だと寂しいんですか? あはは、可愛いところもあるじゃないですか。魔女さん」


「あんた、マジで殺すわよ」


 一瞬の殺気に、リルが小鹿のように震えた。


「いいと思う。修行の時間は?」


 優一が代表して尋ねる。


「土日。それから、シビト退治が終わった後」


「俺は賛成だ。俺自身は参加できないけどな」


「ゆ、優一さん!? 参加しないのに賛成ですか!?」


「魔王もシビトも共通して言えるのは、圧倒的な実力不足だ。それを打破するには、戦闘組の成長が必須だろ」


「で、でも、こんな魔女と……」


「リル。俺も賛成だ」


 ジルが静かに言葉を重ねる。


「魔女の方が魔力も実力も格上だ。経験も必要だし、共に修行すればチームワークも生まれる。何より――強くなることは、直接ダラク様への貢献になる」


 最後の一言が、決定打だった。


「うぅ……ダラク様のためなら……」


 リルは渋々頷く。


「いいでしょう。あなたの寂しがりなところに付き合ってあげますよ」


「いつかあんたをぶち殺すわ。じゃあ、次の土曜日からね」


 殺意の眼差しに、リルは完全に固まっていた。


 こうして、月野をきっかけにリルたちの成長は加速する。

 同時に――優一のプロジェクトも、静かに次の段階へ進んだ。

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