拾ってはいけないものほど、よく光って見える
学校が終わり、空が茜色へと変わり始めた頃、優一は校舎を出た。
生ぬるい空気が肌を撫で、じっとりとした嫌な汗がうっすらと滲む。
家までは徒歩十五分。
朝の「あと五分だけ寝たい」という感情はどこかへ消え、胸の奥には解放感だけが残っていた。家に帰ったら何をしようか――そんなことを考えているうちに、足取りは自然と軽くなる。
特に金曜日は、最高だ。
「……ん?」
ふと、優一は足を止めた。
無意識のうちに、視線がゴミ捨て場へと吸い寄せられていた。
そこにあるはずのないもの。
生活ゴミに埋もれているというのに、まるでブラックホールのように、優一の目を離させなかった。
「もしかして、これって……」
それは、ゲームソフトだった。
ディスクケースを見た瞬間、脳裏にひとつの噂がよぎる。
――学生の間で囁かれている、呪われたゲーム。
なぜ呪われているのか、誰が最初に言い出したのかは分からない。
パッケージも、ジャンルも、内容すら不明。
それなのに、なぜか直感が告げていた。
(これじゃないか……?)
「今日、暇だし。……やってみるか」
特に予定があるわけでもない。
優一はそう自分に言い訳をしながら、ゲームを手に取った。
*
家の中は、生き物の気配がしない静寂に包まれていた。
扉を開ける音がやけに大きく響き、家全体に反響する。
妃は、まだ大学から帰ってきていないらしい。
優一はゲームソフトをぎゅっと握りしめたまま、靴を乱雑に脱ぎ、自室へ向かう。
部屋に入るなり制服を脱ぎ捨て、バッグを放り投げ、迷いなくゲーム機の電源を入れた。
拾ってきたゲームを差し込み、起動する。
『勇者クエスト 勇者VS魔王』
「……センス、なさすぎだろ」
画面いっぱいに表示された、どうしようもなく凡庸なタイトル。
優一は思わず顔をしかめる。
「漂うクソゲー臭……」
ぼそりと呟きながら、スタートボタンを押した。
最新機のソフトだというのに、表示されたのは初代機を思わせる荒いドット絵。
美麗グラフィックに慣れた優一には、正直かなりきつい。
それでも、興味本位が勝っていた。
簡単なあらすじを読み、大まかな内容を把握する。
「復活した魔王を倒すために勇者が旅に出る、王道RPGか……。まあ、王道は王道で嫌いじゃない。問題は中身だよな」
最初の街。
操作キャラは、もちろん主人公――勇者『ダラク』。
「主人公なのに、ダラク(堕落)って……」
早くもコントローラーを置きたくなるが、まだ序盤だ。
RPGの本番は、街を出てから。世界観と冒険への期待感が、プレイヤーを引き込む――はずだった。
――ダラクは、街娘に話しかけることを拒絶した。
「……は?」
――ダラクは眠そうに欠伸をし、二度寝した。
「え?」
最初から仲間が二人いる。そこまでは普通だ。
だが、優一が操作するたび、行動はすべてテキストで拒絶される。
街娘に話しかけようとしても拒否。
武器屋に入っても、購入の選択肢すら出ない。
「じゃあ外に出るしか――」
意地になった優一は、街の外へ向かおうと方向キーを倒す。
――勇者ダラクは腹痛を訴えている。歩きたくない。帰りたい。
「おい……」
さらに操作を続けると、
――勇者ダラクは無理な労働により、過労死しました。
「はああああ!?」
直後、どこからともなく棺が現れた。
ダラクは嬉しそうな笑みを浮かべ、眠そうに欠伸をしながら、どう見ても死んだとは思えない顔で――自らの意志で棺に入っていく。
画面が暗転。
そして、タイトルと共に流れるエンディング。
「ふざけんなぁぁぁぁ!!」
優一は叫び、思わずコントローラーを投げた。
「クソゲーどころか下痢ゲーだろ、これ! やってられるか! マジで!」
勢いよくゲーム機の電源を落とし、すべてを忘れるようにベッドへダイブする。
苛立ちを押し込めるように、優一はそのまま眠りに落ちた。




