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盾が守られる夜

 リルは反応すらできていなかった。

 優一は――ぎりぎり、見えた。だが、一般人の反射神経では避けきれない。


 身体が、氷のように硬直する。

 内側から黒い何かが這い上がり、全身を包み込んでくる。


 ――ああ、これが。

 死か。


 目を閉じた、その瞬間だった。


 ガンッ!


 金属と何かがぶつかり合う重い音が、鼓膜を叩く。


 恐る恐る目を開くと、そこにいたのは――険しい表情のジルだった。

 盾ではない。

 生身の腕で、シビトの攻撃を受け止めている。


「……は?」


 岩でできたかのような巨体。

 鋭い爪が突き立つが、皮膚すら裂けない。


「オォッ!!」


「ありがとう! ……っていうか、なんで盾使わないんだよ!?」


 腰に巻かれたチャンピオンベルト。

 どう見ても飾りじゃない、本物の盾。


 だが、答えを待つ間もなく――


 吹き飛ばされたシビトが起き上がり、再び襲いかかってきた。


 今度はジルも盾を構える。

 ……が、防いでいるのは左腕か、その鍛え抜かれた胴体だ。


「だから! なんで盾使わないんだって!!」


 必死の戦闘のはずなのに、どこか噛み合っていない。

 この光景、ちょっとしたギャグじゃないか?


 ジルは何度もシビトを吹き飛ばす。

 だが、決定打がない。


 後方で荒い息を吐くリルが何か唱えている。

 けれど、優一の耳には届かない。


 ――まずい。


 前に意識を割きすぎたせいで、背後のシビトたちが距離を詰めてきていた。


「……くそ」


 汗が頬を伝う。

 背後には、獲物を狙う無数の殺意。

 前方では、ジルが一体に足止めされている。


 リルは背後の敵と向き合っているが、足は小鹿のように震えていた。


 優一は、唾を飲み込む。


 その瞬間だった。


 まるで合図でもあったかのように――

 背後のシビトたちが、一斉に襲いかかってくる。


 絶対的な絶望。


 だが。


 雨のように降り注いだのは、闇ではなかった。

 光――いや、希望の炎。


「月野!?」


 空から飛び降りた月野が、紅蓮の炎を叩きつける。

 燃え上がるシビトたち。


「危機一髪、ってところかしら」


 余裕の笑み。


「マジで……助かった」


 心の底から息を吐く。


「別に。全部片づけたから来ただけよ。それより――」


 月野はちらりとリルを見る。


「苦戦しすぎじゃない?」


「う、うるさいです! まだ余裕でした! これから勝つ算段を――」


「はいはい。威勢だけは一人前ね」


 指を鳴らすと、黒い球体が現れ、ジルの相手を一撃で沈めた。


「一応聞きますけど、今のシビト……スライム級でしたか?」


「そうね。ももんじゃ、って感じ」


「……雑魚、ですよね?」


「ええ、雑魚」


 月野がにやりと笑う。


「あれ? 魔法使いちゃん、顔ひきつってない?」


「よ、余裕です! もっと戦えましたし!」


 火花が散るような視線の応酬。

 魔女と魔法使いは、本当に面倒だ。


 ――と、その時。


「うわっ!?」


 突然、優一の身体が宙を舞った。

 受け止めてくれると思った月野は、すっと横に避ける。


 顔面から地面に激突。


「いっ……!」


 怒鳴り声を上げようとした、その瞬間。


 ――凍りついた。


 目の前で、ジルが倒れていた。


 胸から腰まで、深く走る斬撃。

 致命傷――そう見えた。


 だが。


 血は、流れていない。


 ジルは顔色一つ変えず、右手で盾を庇っている。


「……いや、意味わからん」


 盾を守る勇者?

 勇者を守る盾じゃないのか?


 頭が追いつかない。


「だ、大丈夫か……ジル」


 ジルは背中を向けたまま、軽く手を上げた。


 その視線の先――


 今までのシビトとは、明らかに違う存在。


 二メートル近い巨体。

 大木のような腕。

 両手に持つ大剣。


「……こんなの、初めてね」


 月野の声から、余裕が消えていた。


「強いわ。あれは」


 次の瞬間、月野が駆け出す。

 大型シビトも即座に反応し、大剣を振るう。


 速い。

 重さを感じさせない、致命の一撃。


 だが月野も怯まない。

 四方から放たれる高位の炎魔法。


 ――効いていない。


 学習している。

 シビトは、確実に対応してきていた。


 そして。


 月野の足が、わずかに――もつれた。


 魔力切れか、疲労か。

 理由はどうでもいい。


 優一には、はっきりとわかった。


 ――勝負が決まった。


「月野ォォォ!!」


 叫びは、届かない。


 殺意に満ちた大剣が、振り下ろされ――


 ……だが。


 月野は、生きていた。

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