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何も変わらない夜に、影は降る

 何も変わらない夜。

 何も変わらない夜空。

 何も変わらない景色。


 見慣れた風景が視界に映り、優一はほんの少しだけ胸を撫で下ろした。

 だが、これから起きる出来事が非現実そのものであることは分かっている。

 ――果たして、朝を迎えられるのだろうか。


 背後に立つ二人の異物。

 彼女たちの成長を見届ける覚悟を決めたとはいえ、ため息は自然と零れた。


 それでも、やるしかない。

 一日でも早く、平穏な生活を取り戻すために。


 夜道を走り、約束の駅前へ辿り着いた瞬間、空気が変わった。

 重く、張り付くような違和感。


「遅い」


 柱にもたれた月野が、感情のない声で言い放つ。


「す、すまん」


 言い訳は無意味だと理解している優一は、素直に頭を下げた。

 だが背後の魔法使い――リルは、明らかに不満そうな顔をしている。


「シビトが、もう出ている」


「出ているって、どこに!? こんな所で悠長に――」


「落ち着きなさい。関係ない者は襲わないわ。結界も張ってある。……そろそろ来る頃ね」


 月野は口元を吊り上げて笑った。

 学校で見ていた彼女とは、まるで別人だ。

 その笑顔に、優一は僅かな恐怖を覚える。


 月野が手を振るうと、大杖が出現した。

 リルも続けて杖を握り、戦闘態勢に入る。


「来た――」


 月野が空を見上げる。

 釣られるように、優一たちも視線を向けた。


「……は?」


 言葉を失った。

 月が――黒い何かに覆われている。


「多すぎだろ……」


 夜空を埋め尽くす無数の影。

 すべてがシビト。百……いや、二百は下らない。


 その瞬間、突風が吹き荒れた。

 月野が以前見せた竜巻が、再び生まれている。


 息を吹きかけると、竜巻は唸りを上げて成長し、空の群れを巻き込み吹き飛ばした。


「開戦よ。後で落ち合いましょう。死なないように頑張りな」


 浮かせた杖に立ち、月野は闇夜へ飛び立つ。

 最後の言葉は、優一ではなくリルに向けられていた。


「お、おい! 別行動かよ!」


「……あの魔女。バカにしましたね。優一さん、ジルさん、頑張りましょう」


 直後、吹き飛ばされたシビトの一部が姿を現す。


 影を人型にしたような存在。

 感情は読み取れず、カチカチと機械的な音を立てながら、黒い炎を吐き出した。


 リルが即座に氷魔法で相殺する。

 続けて足元を凍らせるが、回避された。


 優一は戦えない。

 ただ、目の前の戦闘を見守ることしかできない。


 ジルは巨大な盾を構え、優一の前に立つ。


 ――バランスが悪い。

 序盤で弱い魔法使いが最前線。

 本来なら、勇者が立つべき場所だ。


 白い息が零れた。

 暑くなるはずの季節なのに、空気は冷たい。


 リルの周囲は氷で覆われ、凍り付いたシビトが倒れている。


「……すげぇ」


 リルは振り返り、ピースサインをした。


「余裕です」


 その笑顔は、強がりだった。



 闇夜を飛びながら、月野は残存するシビトを探す。


 半分ほどは減ったか。

 まだ、あの弱い魔法使いの魔力は感じる。生きている。


「いつまで、こんな生活を……」


 思い出すのは、失われた世界。


 笑顔の家族。

 優しい母と、頼れる父。

 ――そして、あの日。


 黒く染まった空。

 一つ眼のシビト。

 血に染まる両親。


『愛している』


 その言葉と共に、月野はこの世界へ飛ばされた。


「……今日は、嫌な予感がする」


 闇の中で、月野は呟いた。



 住宅街を走る優一たち。

 結界により、戦闘の痕跡は残らない。


 背後で爆発音。

 追ってくる足音。


 ――追われる恐怖。


「リル、大丈夫か」


「は、はい……余裕です」


 明らかに限界だった。


 その瞬間、頭上に影が落ちる。


 殺意を帯びたシビトが、優一の真上へ――。

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