表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/15

制御係という名の命乞い

 優一は浮かない顔をしていた。

 気づけば、ため息をつく癖が戻っている。幸せは逃げ放題だ。

 頬をつねっても、夢落ちにはならない――そんな展開は、一度も起きたことがない。


 教室の自分の席に座る。

 妙な緊張感が、身体の内側をじわじわと締めつけた。


「おはよう」


 隣の席へ、いつも通り声をかける。


「おはよう」


 眠そうな月野は、何も変わらない返事を返してきた。

 昨日の“魔女”の影は、どこにもない。


 ※


「――だから、死んで」


 慈悲のない宣告。

 月野の杖が、容赦なく振り下ろされる。


「待ってくれ!」


 優一は反射的に叫んだ。

 その声が、まるでブレーキのように働いたのか、杖は頭部寸前で止まる。


「……一つ、提案がある」


「は?」


 月野は眉を歪め、不快そうに睨みつけてくる。

 それでも優一は、言葉を止めなかった。


「俺たちも、その“シビト退治”に付き合う」


 ――何言ってるんだ、俺は!?


「実はこの二人も、別の世界から来てる。しかも結構身分の高い、凄いやつらだ」


 必死だった。

 考えている暇などない。ただ、口が先に動く。


「深い事情は聞かない。人手不足なら手伝わせてくれ。こいつらは好きにコキ使っていい。俺たちの情報は全部話す。秘密は守る。もし破ったら……殺してもいい」


 命乞いにしては、あまりにも必死で、あまりにも無様だった。


「……何が、出来るの」


「こいつは魔法を使える。さっき見ただろ? やればできる子だ。絶対役に立つ」


「じゃあ、そいつは?」


「えっと……言語は意味不明だけど、めちゃくちゃ頼もしい。防御面は――そう、ダイヤモンド。ダイヤモンド君だ」


「……で?」


 月野の視線が、優一に向く。


「日向は?」


「え、俺?」


 思考が、完全に止まった。


「じゃ、バイバイ」


「待て待て待て!!」


 優一は叫ぶ。


「俺は……制御係だ!」


「制御係?」


「こいつら、時々致命的にバカになるんだ! だからそれを止める! 生かしといて損はない! 多分! あはははは!!」


 笑うしかなかった。

 背中には嫌な汗がびっしり張りついている。


「……んー」


 月野は顎に手を当て、少し考え込む。


「まあ、邪魔さえしなければ……手伝いも悪くないかもね」


 そして、淡々と告げた。


「いいわ。様子見で生かしてあげる。その代わり、情報は全部吐いてもらう。他言したら――」


 にっこりと、笑う。


「知った人間ごと、殺すから」


「……はい」


「じゃあ帰るわ。詳しい話は明日ね」


 月野は、何事もなかったかのように屋上を後にした。


 残された優一は、膝が笑ってその場に座り込む。

 リルは悔しそうに地面に顔を伏せ、ジルは静かに二人のそばに寄り添った。


 ――もう、取り返しはつかない。


 それからは地獄だった。

 魔力を使い切ったリルをおぶって帰宅し、今日の出来事はダラクには伏せる。

 その代わり、リルは盛大に駄々をこねた。


 同じ魔法使いに敗北し、さらに“手伝う”“コキ使っていい”という言葉。

 リルのプライドが耐えられるはずもない。


 結局、もう一日休ませることにした。ジルも付き添いだ。

 あの堕落男は、最初から戦力に数えていない。


 ※


 翌日。


 優一は緊張で身体を固めながら挨拶するが、月野は昨日など存在しなかったかのように眠そうだった。


「ねえ、放課後暇?」


「……え?」


「あんたの家、行っていい?」


「え!?」


「昨日の話、学校でしたくないの」


「……う、うん」


「じゃあ決まりね」


 あまりにも“普通”な月野に、優一は戸惑うしかなかった。


 ※


「本当に、殺すつもりだった?」


「ええ」


 即答だった。


「正体、バレたくなかったから」


 嘘はない。

 それが余計に、優一の胸を重くした。


「……ここだよ」


 そうして二人は、優一の家に着く。


 玄関には、空になった豪華な寿司桶が置かれていた。

 だが優一は、それに気づかないまま扉を開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ