表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/16

日常は戻らない――彼女は知っていた

 昨日の出来事が、紛れもない現実であることは分かっている。

 夢だったなら、どれほど良かっただろう。そう思わずにはいられない。


 だが、リルもジルも、昨日の出来事を覚えている。

 だから、夢ではない。


 燃え盛る竜巻も、街を包んだ戦闘の痕跡も、まるで最初から存在しなかったかのように消えていた。

 世界は何事もなかったかのように、平然と日常へ戻っている。


 リルの言う通り、あの紫のバリアは空間を分離する魔法らしい。

 問題は――昨日、戦った影人の存在だ。


 帰宅後、リルとジルは真っ先にダラクの元へ向かった。

 深い眠りについていたダラクは、棺という名のベッドを揺らされ、無理やり叩き起こされる。


「知らねえ」


 一連の話をぼんやり聞いた末、そう一言残して再び眠りに落ちた。

 どうやら助けに来た人物は、こいつではないらしい。


 というか、俺たちが命の危機に陥っている最中、堕落勇者は気持ちよく夢の世界にいたようだ。

 そこまで眠るのが好きなら、いっそ永眠させてやろうか――。


 そう考えて棺に近づこうとした俺は、全力でリルとジルに止められた。


 ついに起きてしまった。

 俺が一番恐れていた事態。


 ――敵の登場。


 魔王とは無関係だと言い張るリルだが、もはやそんな区別はどうでもいい。

 平穏な日常は、確実に変わり始めている。


 考えることは増え、求められる行動は迅速になる。


「じゃあ行ってくる。お前は今日は休んでろ」


「で、でも……また昨日みたいなのが現れたら……」


「いいから。まだ怪我も治りきってないだろ。行くぞ、ジル」


「オォォ!」


 俺は扉を閉め、ジルと共に学校へ向かった。


 リルは欠席させた。

 治癒魔法で治したとは言っていたが、昨日の疲労と怪我を考えれば当然だ。


 それでも今日はやけに食い下がってきた。

 多分、部活をやりたかったのだろう。


 だが、それだけの理由で登校させるわけにはいかない。


「……昨日はいろいろあったな」


「オォ」


「その、助けてくれてありがとう」


「オォ」


「……うん。それだけ」


 ――やっぱりだ!!!!


 心の中で叫ぶ。

 ダラクやリルと違って、ジルは未だにキャラが掴めない。


 友達の友達理論。

 グループでは問題ないのに、二人きりになると距離感が分からなくなる、あれだ。


 これ以上の会話は無理だと判断し、俺は足早に学校へ向かう。


「オォ? オォォォーオ」


 喋った!?


 なぜだ。なぜそのゴリラ語を俺が理解できると思った。

 しかも疑問形!?


 怒涛のツッコミを心の中で浴びせる。

 隣のジルは、なぜか頬を染めてニコニコしていた。


 意味が分からない。


「あー、うん。そうだな……ハハハ」


 想像もつかない話題に、聞こえるか聞こえないかの声量で返事をする。

 気まずさは、学校というゴールに辿り着くことでようやく解消された。


 教室に入れば、ジルはクールな立ち位置に戻る。

 放課後まで、平穏は保たれるはずだった。


「んぅ……」


「あ、また寝てるのか。月野」


「眠くないわけないでしょ。昨日のアレのせいで」


「え、昨日?」


「宿題よ。死ぬわ、量が。電通学校に改名したら?」


 机に溶けるように伏す月野。


「……宿題?」


 呪いの単語に、嫌な汗が噴き出る。

 忘れていた。物理だ。しかも鬼教師。


 視界に入ったジルは、すでに終わらせていた。

 いつやったんだよ。


「ほら、見せてあげる」


「え?」


「今日は特別。感謝しなさい」


「お借りします!」


 祈るようにノートを受け取り、俺は丸写しの術を発動した。


 ――なんとか乗り切った。


「そういえば、リルって子は?」


「体調不良で休み」


「脆弱ね」


 氷のような言葉。

 だが、気にする必要はない。月野は何も知らない。


 放課後。

 曇天の空を見上げていると、鋭い声が耳に届いた。


 無視しようとして、やめる。

 無視してはいけない人物だった。


「あなた、ですよね?」


「は?」


 そこにいたのは、険しい顔のリルと、明らかに嫌そうな月野。


「とぼけないでください」


「意味分かんないんだけど!」


「お、おい。どうしたんだ、リル」


 俺が割って入る。


「この人が――」


「ちょっ……!」


 月野がリルの口を塞ぐ。


「……噛んだわね!?」


 リルは隙を突いて逃げ、俺とジルの背後に隠れる。


「この人が、昨日わたしたちを助けてくれた人です!」


 一瞬、思考が止まる。


「……月野?」


「……来て」


「え?」


「屋上。今から」


 それだけを残し、月野は校舎の奥へ消えた。


 日常は、確実に終わりを告げていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ