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フィギュア・ドール・生身

 僕はゲームの「不自由さ」が嫌いだった。RPGやアニメ・ゲームは大好きだったが、特に好きなのは「フィギュア」で、スケールは1/1に近ければ近いほど興奮した。手足をもいだり、縄を買って縛ったりすることが好きだった。


 別にグロいことが好きな訳じゃない。あまりグロ好きのクラスメイトには理解されなかったが、あくまで舞台としては王道ファンタジーの魔法と件の世界で、アニメ・漫画の二次元的イラストの美しいキャラクターがだるまになったり拘束されているのが好きで、それはグロとは全然違った。


 しかしフィギュアとか、年齢詐称で手に入れたラブドールだとかでこの癖を満たすのは、あまりに「割高」だった。金持ちの異状性癖感があると思うが、僕は特別裕福という訳ではない家庭の一人っ子だ。


 だから、フィギュアではなくゲームの中でそれが出来ればありがたいのだが、どうしても四肢切断は「グロ表現」と隣合っているし、ノベルゲームでは既存のストーリーラインがあるだけで僕の自由意志で切断・束縛はできない。


「高校卒業後は順当に行けは造形師かなー。ゲームクリエイターになってもCEROには敵わないし、MODで実装するにしてもなあ」


 学校の昼休み、読んでいたファンタジー漫画を閉じて机にしまう。


「……実際の生身の人間に手を出す訳には行かないし。犯罪者になりたくない。……あーあー、異世界に転生でもしないかなあ」


 この嘆きは、反転して叶う。


 僕が異世界に行くのではなく、魔界から魔王が現実世界にやってきた。


 四肢をもがれて、なお生きてる聖女を携えながら。




   *      *




「転校生を紹介するぞー」翌日、担任教師が女生徒を教室に招き入れた。女性は綺麗な褐色肌に白髪で、ちょっとやりすぎなくらいに漫画から出てきたダークエルフを思わせる風貌をしていた。あそこまで耳の尖った人を見たことがない。


 見るからに外国人で、パンクバンドのファッションを思わせる角の付いた帽子を被っていた。


「日本では帽子は外しなさい」と教師は言ったが、多分許可してる文化の国の方が少ないと思う。


「ああ、はい、はい。わかりました」女性は帽子をとって鞄にしまった。


「?」僕は一瞬帽子の下にホンモノの角を見たような気がした。いや、気のせいだろう。昨日は徹夜でフィギュアと遊んでいたし。


 褐色の女性はチョークを走らせる。「オーガスタと言います。よろしくね」


 彼女は席が空いていた僕の隣に座った。何やら僕を見てニヤニヤしていた。


「よろしく、ライくん」彼女に話しかけられた。「昨日はジュリを穢してたから眠いでしょ?」


 ボクはその言葉を聞いて完全に硬直してしまった。なんでジュリという女性フィギュアで遊んでたことを知っている? 自宅で、1人きり部屋に籠っての出来事だぞ? まさかこの転校生、オーガスタはハッカーで、僕のPCカメラをハッキングした?


「いったい……」僕はなにか言おうとしたが、担任が(現文教師でもある)さっさと1限を開始した。


「……」僕は何度も横目にオーガスタのことを見たが、彼女は正面をニヤニヤしながら見るばかりで、僕の方を最初の挨拶きり1回も見ようとしない。


「(よくよく眺めたら胸も大きいし太もも太くてタイプだな……いや違う! 今大事なのはそれじゃない!)」僕は使ってないノートを引っ張り出して疑問を文にした。


「なんで僕のプライベートをしってるんだ? まさか実は家族にバレてて君は親戚? もしくはハッカー?」


 僕はノートをオーガスタの机に強引に置いた。するとじっとオーガスタはノートを真顔で眺めたかと思うと、急にこちらに向き直って……張り付いたような笑顔を向けて……自分の眼球に手を突っ込んで引き抜いた。


「ひ……」僕は叫び声をあげたはずだった。しかし、何故が声が喉より先に出ず、細い息がもれるばかりだ。


 オーガスタはペン回しでもするように眼球を手で持て遊びながら、もう片方の手でノートに文章を書き足していった。


 彼女は予想よりずっと文章を書いた。ノート1ページ分使い切ったと思う。


 授業終了のチャイムが鳴った。ほぼ同じタイミングで、ノートは返却された。


「これから、楽しい楽しい学園生活だね!」オーガスタはまるでコンタクトレンズを入れるかのように弄んでいた眼球を瞼に入れ直して、2限の移動教室のために席を経った。


 僕はこのまま同じ教室だ。彼女を追いかけたかったが、まずはノートの文章を読むことが先だ。


 空き時間の10分で読むにはあまりに現実離れした、厨二病かのような"設定"がびっしり綴られていた。しかし、僕のプライベートが筒抜けなのと、あの眼球……。どうしても、オーガスタがノートに書いた内容を嘘とは思えなかった。


「私は異世界で魔王をしていた。数日前、勇者一行がせめてきて討伐されてしまった。しかし、嬉しいことに、勇者一行の『聖女』を道ずれにすることに成功した。私は勇者との戦闘で右目を失ったが、聖女の身体は他者に"移植"しても拒絶反応のおきない奇跡の身体らしく、私の右目によくなじんだ。

 私は『魔王』と呼ばれているが、困っている人がいたら助けたい性分だ。一方、この聖女は善悪をキッパリ分けて魔族はとことん殺戮する主義なので、随分私の部下や奴隷を殺してくれた。ただ、この聖女自身は自己犠牲で人を助ける信念もある女性なので、彼女の身体パーツをこの日本の病める人々に与えても、きっと許してくれるだろう。

 ということで、私はこの高校を中心に身体欠損した人々に腕や舌や脚や視力や聴力色んなものを聖女から切り離して恵んであげた。

 胴体と脳がまだ残っているが、きっと君の癖に刺さるだろう。放課後、君の家に聖女を届けてあげるよ。異世界の人物だからこの世界の法律に怯える必要もないし、私は人々を幸福にできて支配者として満足だ。私とライくん、君の癖はかなり近しいから、一緒に楽しもうじゃないか」


 なにかが……僕の人生にヒビが入った音がした。でも、同時に甘美な空気が入ってきた。




「放課後が楽しみだなあ!」

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