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ある男の話

いつも、君は一言多いねと言われていた。

幼稚園ではそのせいで先生に嫌われていたらしい。

俺は覚えていないが、親は手を焼いたようだ。

小学校ではクラスで飼っていた金魚が夏の暑さで死んでしまった時、お墓はそこらへんの花だんでいいだろと言ったらクラス中から非難の目で見られた。

そこからはいじめの標的になってなかなかキツイ小学校生活だった。

中学、高校、大学では今までのことを教訓にしてのらりくらりと過ごしてきた。

でも本質は変わらない。

俺は一言多い人間で、そのせいで思いもよらないことになる。

その一言は何かだって?


「俺は子供が欲しい」






「んー!今日もいい天気!洗濯物がはかどるわぁ」

主婦の1日は洗濯物から始まる。

まだまだ甘え盛りの1歳児の朝ごはんを準備しながら着替えを用意したり、何を食べさせようか、ストックしておいた冷凍の離乳食を解凍したり。

朝はやることが山積みだ。

しかも私の体調は天気に左右される。

今日のように晴れている時はいいが、梅雨時期や雨の日は途端に怠け癖が出てダラダラしたくなるのだ。

今日は布団でも干しちゃおうかなんて考えていたら、夫がスーツを着て2階から降りてきた。

「祥子おはよう。もうご飯食べたよ。もうすぐいってくるから」

夫、文也は納豆ご飯うまかった、とネクタイを締めながらつぶやいた。

自分でご飯を食べてくれる旦那、助かるわぁと思いながらおはよう、と声をかける。

「笑麻ちゃんおはよ〜❤️

パパ行ってくるからね〜❤️❤️」

寝起きの娘、笑麻のすべすべほっぺにキスをしながら文也が挨拶するのも恒例行事だ。

日中は笑麻に会えないのだから、これもしょうがない。

本人は少し嫌そう。

わかるよ、笑麻。

おひげのジョリジョリが嫌だよね。

それがお父さんってものだから、ちょっと我慢してね。と心の中で思いながら朝の支度を済ませていく。

離乳食は大体作り置きで冷凍したものを電子レンジで温めて食べさせる。

幸い笑麻は好き嫌いが少ないようで毎日よく食べてくれる。

文也に行ってらっしゃいをして、離乳食を用意しながら笑麻のおむつを変えて着替えさせて、やっと食べさせる。

あと1番大事なお肌のクリームを塗るのも欠かさない。

乳児湿疹は油断できない。

塗っても塗ってもよだれでまた湿疹ができてしまうのだ。


子供の離乳食の間に自分も朝のコーヒーを飲んで、一息ついてから洗濯物を干す。

それから少し身なりを整えて朝のお散歩に行く準備を始める。

夏の暑い間は散歩に行けなかったが、少しづつ涼しくなってきて散歩に出ようかと考えられるようになってきた。

だがまだ昼間は暑いから散歩は午前中に済ませる。

ケータイと鍵だけを持って、ベビーカーに笑麻を乗せ家を出る。

散歩コースは近くの公園を一周して帰ってくる。

公園までは少し住宅街やマンションの前を通る。

公園にはいつも朝の体操のために住宅街のおばさま達が集まっている。

ちなみにみんな笑麻にメロメロなおばさま達で、少し世間話するくらいには仲良くさせてもらっている。

だが今日はいつもの朝とは少し違っていた。


「…?」

おばさまが1人もいなかったのだ。

「どうしたんだろうねー、笑麻ちゃん」

笑麻がいるとはいえ、話ができる大人は貴重だったので、毎日の楽しみが減ったことは少しショックだ。


公園を一周して帰ろうという時、道の先からいつものおばさま達が3人、大声で何か話しながらこちらに来ている。

「こんな平和な街で、あんなことが起こるなんて信じられないわよ」

大きな声で話しているのが佐藤さん。

少しふくよかなおばさまだ。

「ほんとほんと。

しかもこの辺で1番高級なマンションでなんて」

3人の中で1番背の高い田中さんが声を潜めながら呟いた。

「痴情のもつれってやつかしら?」

優しげな顔の鈴木さんは探偵になったかのように楽しげに話していた。



「おはようございます。」

私が挨拶をするとおばさまトリオはいつもの笑麻に向ける笑顔になり、

「あら〜、絵麻ちゃんと祥子ちゃんじゃない」

と、いつもの人のいい笑顔に戻る。

「何かあったんですか?

いつもの公園にいらっしゃらなかったので」

私が不思議に思って尋ねると、

3人はとても楽しそうに話してくれた。





近くの高級マンションで殺人が起こった、

と。


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