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第3話:相棒と犬猿

 資料室に立てこもる。

 鬼灯は放火事件のファイルを片っ端から確認していく。

 すでに数日間この調子である。


 発火のアビリティは数が最も多いと言われている。

 アビリティの根源は前世の死因と言われているが、死亡率とは関係ないようだ。

 実際、もっとも人間の命を奪っている悪性新生物——つまりは癌なわけだが——、それに関連したアビリティ所持者は今のところ確認されていない。


 2225年(去年1月~12月)の放火事件数、6504件。

 一般人の放火事件2821件、一般人の放火の疑い1205件、アビリティの暴走2478件。

 1年にこれだけの放火事件が存在しているのだ。どれかはアンソニーを犯人に仕立て上げようとした放火魔の事件が存在しているはず。


 疑うべきはアビリティの暴走で発火のアビリティ本人が命を落としている場合だ。

 アンソニーが言う通り、発火のアビリティは耐火性の身体を持って生まれる。

 火災によって亡くなる可能性は低い、建物が崩れて押しつぶされたか、煙によっての一酸化炭素中毒か。

 はたまた発火のアビリティを狙った殺人鬼でもいるのか。


「いい加減、資料室から出てこいバカナス」


「猿彦。麻酔銃の件、許してないぞ」


「知るか」


 呆れた顔を浮かべて現れたのは同じ課のシューカイ・猿彦。

 両親が植物園を営んでおり、名前鬼灯 健からイヌホウズキを連想したらしくお互いが巡査部長の時代から『バカナス』と呼んでくる。

 そしてなにより犬猿の仲である。


 肉体派の鬼灯、頭脳派の猿彦。

 意見のぶつかり合いが多かったそうだ。


「今や警部補だ。〝さん〟をつけろ。貴様がムショで()()()()()()()()()()()間に俺は出世していたわけだ」


「ろくにしてないだろ。あれから十年だぞ。警視正くらいにはなってろよ。……そーいや、澄田、俺達の上司はあの若さでどうやって警部になった?」


「さあ。警察庁長官の娘だとか、若返りのアビリティだとか色々と噂はあるが、一番しっくりくるのが『アビリティ対策課なんて死人も同然』というものだ」


「なるほど。早めの二階級特進ねぇ」


 誰もやりたくない課、それがアビリティ対策課。ということだ。

 適当な人材を選んで二階級特進させる代わりにやれと。


「じゃあ俺達はカミカゼってか」


「分かっているじゃないか。自殺部隊なりに働け」


「お前は俺の母ちゃんか。引きこもって資料漁っていようとお前に迷惑はかけていないだろ」


「迷惑だ。うちの課は必ずふたり以上で捜査するようにボスから命令が出ている。しかも貴様とパートナーになるよう命じられている。貴様がここで無駄な時間をすごしている間、俺はデスク仕事だ」


 そう言って猿彦は資料を奪い取り目を通していく。

 すぐさま鬼灯がなにを調べているのか分かったようで同じように事件を分けていく。


「そういえば、娘ちゃん大きくなったろ」


「……13になった」


「そろそろ反抗期来るんじゃないか?」


「貴様とはこの話をするつもりはない。事件に集中しろ」


「へいへい、そうですかい」


 猿彦は首にかけているペンダントを外し、自分のポケットに忍ばせた。

 妻と娘の写真が入っているペンダントである。

 犬猿の仲とはいえ、気を遣う場面はあるらしい。




 ……数時間。

 仲が悪いから無言の時間がずっと続いても気まずい空気にはならなかった。

 むしろ黙っていろとお互い念じているくらいだった。


「おい、鬼灯。この放火事件、4件を見てくれ」


「……同じ地区で、発火のアビリティが暴走し、一酸化炭素中毒で亡くなっているな」

 

「偶然。と思うか?」


「この短期間で4件は流石に見過ごせないよな。日にちや発火時間に関連性はないが」


「火災現場に到着した消防団が同じだ」


「ああ、しかもアンソニーの火災事件の鎮火をさせたのも同じ消防団。……こいつは臭いな」


 ふたりは立ち上がり、小走りで資料室を出ていく。

 歩くスピードは徐々に速くなっていき、もはや徒競走のようになってしまった。

 ほぼ同着でパトロールカーに乗り込む。


 運転席に猿彦、助手席に鬼灯。

 プライド的には運転席に乗り込みたかった鬼灯だったが、付けられた腕時計が車と連動しており、鬼灯が運転席にいる間はエンジンがかからないのだとか。

 しかも他の警官が一緒に乗っていないと警報が鳴るらしい。


「安全運転で頼む」


「貴様と違ってゴールド免許だ」






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