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第1話:地下に灯る復讐の炎


 髭を剃り、白髪交じりの黒髪を見て、自分も歳を取ったなと思う。


 鬼灯 建は久しぶりに外の空気を吸った。

 刑務所との空気の違いと言えば汗やカビ臭くないかどうかだったが、確かに心地の良いものだった。

 けれどその心地の良さに不快感を覚えて、出所のすぐさまコンビニでタバコを買い、深く吸う。

 一番安いひと箱1.850円の「おちば」。


 燃えて、燃えて、灰を落す。なんの意味もない。ただただ命を消費する行為。

 1時間で10本消費した。

 出来る限り肺にダメージを与えれるように。


 仮釈放なしの終身刑を食らった男が外に出られている理由、そんなのは明白である。

 死ぬよりも辛い業務をさせる為だ。

 鬼灯に会いに来た女刑事、名前を澄田・フォスター・沙良といい、アメリカ系日本人。髪色は黒いが目の色が青い。21歳で階級が警部なのだから驚きである。


 2220年、つまりは5年前に組織されたアビリティ対策課に所属。業務内容は犯罪行為に及んだアビリティ、または異名が与えられるほどのシリアルキラーの確保。抹殺。

 鬼灯は澄田の部下になる代わりに刑務所から出ることが叶ったわけである。

 といっても、腕首の時計に位置情報を全て把握され、行動許可地域を出ると爆発して腕首が吹き飛ぶそうだ。


「アンソニー・B・ウリエル。アメリカ移民。18歳。発火のアビリティ。罪状は両親と妹をアビリティ使用により殺害。事件現場付近の全ての家に炎が燃え移り計12人が亡くなり、38人が全身やけどを負う。犯人は未だ逃走中」


 大昔から火災事件の犯人は死刑と決まっている。

 よって鬼灯が現在、目を通している資料にも〝危険アビリティ、始末されたし。〟と赤文字で記載されていた。


 つまりアビリティ対策課に所属した初日の任務は未成年の命を奪うものだった。


「18歳ねぇ……」


 鬼灯は事件現場である燃えてほとんど崩壊しているアンソニーの自宅を見回る。

 事件から数日経っているため、警察官は誰もいない。

 触ったら崩れ出しそうな骨組み、鉄の扉。


「建築後から取り付けであろう扉がふたつ。しかも部屋の中からは鍵はかけられず、外からのみ。まるで監禁部屋だな。……階段下に秘密の空間……」


 隠し扉のようになっていた階段下を覗き込み、暗闇に目が慣れてきたと感じると中へと進んでいく。

 コンクリート作りの地下への階段。

 嫌な臭いがした。いつしか嗅いだことのあるような、絶望へと繋がっているような、嫌な臭いがした。


「手錠に、血の付いた鞭、……夫か、妻か。いや、考えるまでもなく夫だな。隠し部屋なんて好むのは男の方だ。アンソニーと妹が被害に合っていたと考えるべきか? 妻はどうだ、被害者か加害者か」


「そのどちらでもねぇよ。……いや、どちらでもあったのか」


 鬼灯が壁際ぼろ布だと勘違いしていた物がむくりと起き上がる。

 暗闇だから確信は出来ないが、その人物が誰なのかは聞くまでもなかった。

 こちらも昔からよく言うものだが〝火災の犯人は現場に戻ってくる〟。

 というよりもそもそも逃げてすらいなかったのかもしれない。


「お前がアンソニーだな」


「逃げる気力もねぇ。捕まえるならご自由に」


 両手を差し出すその人物は骨のように痩せこけて、目に生気はなく、18歳にしてはあまりにも身体が出来ていなかった。

 鬼灯の勘は間違いない。この人物は家庭内暴力の中で育った青年である。


「DVの家庭で育った兄妹は他の家族に比べて絆が強いと聞いたような気がする。両親と一緒に妹を燃やしたのはどうしてだ。アビリティ持ちのお前だけが被害を受けていたのか、それとも苦しみから解放してやろうと思ったのか」


「どうでもいい。俺が燃やした。それだけだ」


 生気のなかった瞳に熱が帯びる。

 鬼灯はこの瞳の中の炎を知っている。かつては自身の瞳にも宿っていたものである。

 おそらくそれは復讐心。


「自暴自棄か」


「さっさとムショでもどこにでも——」


「残念だな。お前が行くのは地獄だよ」


 アビリティの使用。

 アンソニーの首、両腕、両足、腰を固定するギロチン台が現れ、地面に這う。

 ようやく自分の立場が分かったようで、アンソニーは冷や汗を流した。

 もがいてももちろんどうにもならない、発火のアビリティを使うも体力がないせいか小さな火で、ギロチン台は木製にも関わらず少し焦げる程度。


「おい、なんだよこれ」


「これだからガキは。12人も殺しておいて刑務所で反省会しましょうねってのは虫が良すぎるとは思わないか。お前はここで首を落して死ね」


「て、テメェ!?加害アビリティがサツなわけねぇよな。さっさとアビリティを解け。殺すぞテメェ!!」


「なよっちぃ骨ガキが随分とイキがるな」


 鬼灯は拘束されているアンソニーの頭を踏みつける。

 コンクリートと骨が擦れ合って、ゴリッと鈍い音が響いた。

 そして鬼灯は殺気を漏らす、アンソニーは今から殺されるのだという恐怖で全身から汗が噴き出す。

 少しでも逆らえば首が飛ぶ。四肢が飛ぶ。


「俺は死ぬわけにはいかねぇんだよ! あの男を殺さねぇと——……ヘレナ、妹の仇を取るんだ。アイツを殺すまでは」


 この証言が確かならば、火災事件には真犯人が存在する。

 アンソニーの眼光、と弱りきったアビリティの火力を見て鬼灯は確信していた。

 身体もろくに動かせず、数週間はちゃんとしたものを口にしていないであろうこの青年になにが出来たというのだろうか。奪う方ではない、奪われ続けてきた存在だ。

 ギロチンのアビリティを解除する。


「だったら刑務所だなんて甘えて逃げるな。妹を殺したその外道に地獄を見せてやれ」


「は?」


 鬼灯の言葉に、アンソニーのは固まる。

 瞳の奥には焼け野原の暗闇、その声はまるで悪魔の囁きのようだった。

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