影と光のあいだ
夕暮れの公園。
ベンチに腰掛けた老人は、目の前で遊ぶ子どもたちを見つめていた。笑い声が風に溶けていく。
そこに若い男が隣に座った。疲れた顔をして、手には仕事帰りの鞄を握っている。
「子どもは、いいですね。未来があって」
男がつぶやく。
老人は微笑んだ。
「未来というのは、若者にだけあるものではないよ」
男は怪訝そうに振り向いた。
「でも、私はもう失敗ばかりです。未来なんて、ただ時間が過ぎるだけじゃないですか」
老人は空を仰いだ。沈みゆく太陽が空を赤く染めていた。
「時間は、確かに誰にでも平等に流れていく。だがな、未来とは“これから訪れる出来事”ではない。未来とは、“今の心の向き”なのだよ」
男は黙り込んだ。
「過去にどれほど影があっても、心が明日に光を向ければ、それは未来になる。逆に、心が影に縛られていれば、どれほど若くても未来は閉じてしまう」
老人の言葉は、夕暮れの静けさに深く響いた。
子どもの笑い声と、街灯が灯り始める気配が重なり合う。
男はふと、自分の胸の奥で小さな灯がともるのを感じた。
「……未来は、心の向き」
そうつぶやきながら、彼は久しぶりに深呼吸をした。
老人は立ち上がり、ゆっくりと歩き出した。
背中は夕日の影に溶けていく。
しかし男の目には、その姿は光を帯びているように見えた。