裸で目覚める貴族の館
「ん……あれ?」
目が覚めると、着ていたはずの直衣が消えていた。
代わりに、肌に直接触れるふとんの柔らかさと、微かな香の匂いだけがあった。
「……裸?」
身体を起こすと、そこには檜造りの豪奢な風呂。
朝日が障子から差し込み、湯煙がゆらゆらと漂っている。
そして、その湯船のすぐ脇で、布を持って控えている少女がひとり。
――ぺたんこ。
(ピピッ! PETA:92%)
「お、おはようございます。若様。朝湯のご準備が整っております」
「いや、あの……君、なんでそんな堂々としてるの?」
「?」
この時代、風呂に入る=裸を見せ合うことに大した抵抗がないらしい。
俺の中の現代人としての羞恥心がざわつく。
が、同時に――ぺたセンサーが唸る。
(……落ち着け、俺。これは“信仰”だ。信仰を汚すな)
意を決して、湯船へ。
「熱ッ! けど……気持ちいいな」
平安の風呂文化、やるじゃん。
お湯は少しぬるめだけど、身体を包むような優しさがある。
薪の香りと香木の香りが鼻腔をくすぐる。
「若様、湯加減はいかがですか?」
「完璧です。ぺた的にも」
「はい?」
「い、いや、なんでもない!」
少女は少しだけ首をかしげると、布をそっと差し出した。
「お身体をお拭きします」
「だ、だいじょうぶ自分でやる!」
「しかし、それでは――」
「だいじょうぶ! 俺、ぺたの前では理性が危ない!」
「……?」
理解不能という顔をされる。だろうな。俺だって何を言ってるかわからない。
それでも俺は、両手で顔を覆いながら、湯の中に滑り込んだ。
この世界、試練が多すぎる。
でもなぜだろう。
心の奥底で、どこか懐かしいような、満ち足りた気持ちが芽生えていた。
裸で目覚めた貴族の館。
このぺたで満ちた世界――もう少し、悪くないかもしれない。
(第6話につづく)
毎朝6時に投稿しますので、お楽しみに!
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