平安時代、ぺたセンサー始動
「ん……」
目を開けると、天井があった。
ただし、それは現代のオフィスビルでも、アパートの薄汚れた天井でもない。
丸太を組んだような梁。
天井板は紙のように薄く、風が通り抜けるような気配がする。
「……ここ、どこだ?」
頭が重い。
でも、体は妙に軽い。
起き上がろうとして、自分の手を見る。
――細い。白い。指も長い。
鏡はないが、自分が“俺”じゃないことはすぐにわかった。
見慣れたスーツもなければ、スマホも財布もない。
かわりに、ゆったりとした白い衣――直衣というらしい――を着せられている。
「マジか……」
あの神のふざけた転生話は、どうやら現実だったらしい。
「ご気分はいかがですか、若様?」
急に扉が開き、女性が一人入ってきた。
控えめな足音。うなじの美しさ。
けれど何よりも、胸元の布が――
「ぺたんこ……ッ!」
俺の中で何かが爆発した。
(ピピッ!)
音がした気がした。
俺の視界の端に、なぜか「PETA:80%」と浮かんでいる。
「……なにこれセンサー?」
「あの、若様?」
「い、いや、こっちの話」
どうやら俺は、“ぺた”が近くにいると反応する謎の能力――
転生特典「ぺたんこセンサー」なるものを授かったらしい。
「朝餉のご用意ができております。こちらへ」
その女中に案内されながら、俺は思った。
――これはこれで、アリかもしれない。
異世界で、平安時代で、
“ぺた”を信仰して何が悪い。
(……やるしかねぇ)
この時、まだ俺は知らなかった。
この能力が、後に宮中を巻き込む大騒動へと繋がることを――。
(第5話につづく)
毎朝6時に投稿しますので、お楽しみに!
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