乱心の都、愛と裏切りのあいだで
次回「第10話:夜の密書と消えた姫」では、斎子姫の行方を追い、主人公が都の闇に足を踏み入れていきます。
燃え残る町屋の梁が、崩れ落ちた音がした。
都のあちこちではまだ小競り合いが続いている。
だが、屋敷を制圧した今、俺たちには一息つく時間が与えられた。
「ふぅ……」
俺は小夜と肩を並べ、壊れた門をくぐって廃屋の中庭に立っていた。
先ほどの戦いで、袴は泥まみれ、額にはかすり傷。
でも、生きていた。
「変な顔してますね、加藤様」
「変って言うな。もとから変だけど、今はそれなりに考えてるんだ」
「ふふ、そうですか」
小夜は静かに微笑んだ。
ほんの数日前、山の中で出会ったあの少女が、今は命を懸けて俺と共に戦っている。
俺はその事実に、心の底から感謝していた。
――けれど。
そのとき、清盛の従者が慌ただしく駆け寄ってきた。
「加藤清光殿、斎子内親王様が……!」
「姫が、どうした!?」
「……屋敷が襲撃され、消息が――」
胸が、音を立てて凍りつく。
さっきまで、確かに安全な場所にいたはずだった。
小夜と共に屋敷を離れた。それが、彼女を危険に晒したというのか?
「姫……!」
気づけば、俺は走り出していた。
屋敷に戻ると、そこには焼け焦げた衣の残骸と、荒らされた調度品。
女官たちは怯え、うずくまっていた。
「内親王様は!? 無事か!?」
「わ、わかりませぬ……数人の黒装束が忍び込み、屋敷の裏口から……」
誰が、何のために――?
「まさか、白河院方が……?」
そう呟いた俺の肩に、小夜の手が触れた。
「加藤様、姫はきっと無事です。貴方がいるのだから」
「でも……俺は、守れなかった」
「貴方は、姫を信じていた。だから彼女も、貴方を信じていた」
「信じて……」
「ええ。だから、取り戻すのです」
彼女の声は、静かで、強かった。
俺は拳を握り、深く頷いた。
「分かった。必ず……姫を取り戻す。
ぺた魂にかけて!」
「……ぺた魂って、こういう時にも使うのですね」
「大事な時ほど、使いたくなるんだよ」
その夜、清盛と共に謀議が開かれた。
「斎子内親王の行方は不明。敵は彼女を人質に、こちらの士気を下げるつもりだ」
「だが、それで戦が止まると思っているのなら……都を甘く見すぎだ」
清盛は怒りに燃えていた。
「清盛、俺に一つ頼みがある」
「言ってみろ」
「俺に、姫を捜させてくれ。兵はいらない。
ただ、姫の居場所に繋がる手がかりと、動く自由を」
「……貴様の“ぺた”のためか?」
「そうだ」
清盛は短く息を吐き、やがて笑った。
「よかろう。好きにしろ。だが――」
「……?」
「戻った時に、姫が“ぺた”じゃなくなってても泣くなよ?」
「おいっ! それは国宝級の冒涜だろ!」
「ははは! お前なら、笑い飛ばせると思った」
その夜、俺は再び、都の闇へと消えていった。
愛する者のために。
守ると誓った命のために。
そして何より――
“ぺた”を、ただの嗜好で終わらせないために。
(第10話へつづく)




