炎の庭に咲くものは
火が、都を染めていた。
瓦屋根の上を跳ねる炎、路地に倒れる武士の影、女たちの叫び声――
それは、かつてこの地にあった「雅」という言葉を一瞬で消し飛ばす光景だった。
「くそっ……」
俺は馬を下り、燃える屋敷の門を見上げた。
ここは、昨日まで後白河院の寵臣が住んでいたという館。
今は、白河院方の武士たちに占拠され、拠点として使われている。
「清盛の命令は、“ここを潰せ”……か」
ふざけた使命を、ぺたフェチの俺が引き受けるとは思わなかったが、今となってはもう逃げ場はない。
「やるしかねぇ……!」
だがその時だった。
「加藤様!」
裏手の竹林から、小夜が現れた。
「なっ、小夜!? 何でここに……!」
「姫の屋敷が危険だと聞いて……でも、貴方が動いていると知って、つい……!」
「危ないだろうが! 戦場だぞここは!」
「分かってます……でも!」
彼女の瞳には、迷いのない光があった。
「小夜……」
その瞬間、屋敷の中から鋭い矢が飛んできた。
俺はとっさに小夜を抱き寄せて伏せた。
矢は、背後の木に突き刺さる。
「やっぱり……戦場だ、ここは」
「うん。でも、私は……ここにいる」
俺たちは見つめ合い、そして頷いた。
突入は、小夜との共闘だった。
竹林から屋敷の裏手に忍び寄り、俺が陽動、小夜が裏口の鍵を外す。
中に踏み込むと、数名の敵兵が警戒していたが――
「ぺたぁっ!」
俺の叫びが鳴り響くと、敵の動きが一瞬止まる。
「な、なんだ貴様は……!」
「変態だよ。でも、それだけじゃない! ぺたは、命を懸ける価値があるんだよ!」
そのまま、俺は木刀(本物の刀が怖かったので借りた)で一人を殴り倒す。
小夜は短刀で敵の背後に回り、見事に足を払った。
「ぺた魂、炸裂!」
「加藤様、口上が長いです!」
「すまん!」
一人、また一人と敵兵を倒し――ついに屋敷の中枢へ到達した。
そこには、白河院方の参謀がいた。
「お前が……あの、変な男か……」
「そうだ。“変”ってのは褒め言葉だ。
でも、侮るなよ。“変態”は、命を賭けて何かを愛せる人種なんだ」
「……馬鹿なっ!」
彼が刀を抜くより先に、小夜が踏み込み、その腕を払った。
「今よ、加藤様!」
「ぺたっ!」
俺はありったけの力を込めて、木刀を彼の額に叩き込んだ。
ガツン――と鈍い音がして、男はその場に崩れ落ちた。
「終わった……!」
「はぁ……はぁ……」
小夜は額に汗を浮かべ、俺にしがみついた。
「勝った……んだよな……?」
「ええ……私たちの、“信じるもの”で勝ちました」
外に出ると、既に屋敷の周囲には平氏軍が集結していた。
清盛が馬から降り、俺の方へ歩いてくる。
「見事だったぞ、加藤」
「報酬は、“ぺた布教の自由”で」
「……やめろ、それは都が混乱する」
清盛が笑った。
「小夜も、よくやったな。お前がいるだけで、こいつの暴走が五割減だ」
「え……それって褒められてますか?」
「間違いなくな」
戦は、まだ終わっていない。
だが、今日ひとつの“戦場”を超えたことで、俺たちの中に確かなものが生まれていた。
それは――
命を懸けてでも、信じられるもの。
それが“ぺた”でも、“誰か”でも――
この時代を生きる理由になるのなら、十分すぎるほどの意味がある。
(第9話へつづく)
次回「第9話:乱心の都、愛と裏切りのあいだで」では、政変の渦が都を飲み込み、斎子姫との関係に新たな波が訪れます。




