神の勘違いと転生会議
目を開けると、そこには何もなかった。
空も地面も区別がつかず、ただ白一色の空間。
音も風も匂いもない。
あるのは、ぽつんと立ち尽くす俺――だけ。
「……ここ、どこだよ……」
俺は手足を動かしてみた。痛みも疲れもない。
さっきトラックに轢かれた感触は、まるで嘘のようだった。
そのとき、不意に「ぽんっ」と何かが弾ける音がして、目の前に誰かが現れた。
「やあやあ、お疲れ様。君、いい死にっぷりだったね!」
お、おじさん?
白い和装に白髪のオールバック、そして丸眼鏡。
どこか神主みたいな格好のその人は、ニコニコしながら俺を見ていた。
「どちら様……ですか?」
「地球の神です」
「え?」
「うん、地球を担当してるローカルな神さ。最近はAIとかに押され気味だけど、まだ頑張ってるんだよ」
ふざけてるようで、なぜか本気っぽい。
この世界で、俺以外に存在している“知性”が、どうやらこの人しかいないという現実が、何よりも信憑性を生んでいた。
「君の死、なかなか感動的だったよ。女の子を庇って自分が死ぬなんて、最近じゃ珍しいね」
「はぁ……ありがとうございます……?」
「それでね、君の来世をちょっとサービスしようと思って、今日は転生の相談会を開いてるんだ」
神は掌をひらひらと振ると、背後に黄金の巻物がふわっと浮かんだ。
「スキル選べる系、チート盛り盛り系、異世界ハーレム系、なんでもあり!」
「……俺、異世界とか行きたくないんですけど」
「ほほう。なかなか硬派だね。じゃあ希望だけ聞いておこうか。好きなものとか、こだわりとか」
「……ぺたんこが、好きです」
「ぺたんこ……?」
「胸が……小さい女性が、好きです」
沈黙。
神は巻物を閉じて顎に手を当てた。
「なるほど。“平”が好きなわけだ」
「いや、ぺた……」
「よし、決めた!」
神はパチンと指を鳴らした。
「平が力を持つ時代、平安の幕開けだ。ちょうどいいよ、清盛がこれから頭角を現す頃。
君には、平の世を支える“ぺた魂”を広めるための使命をあげよう!」
「ちょっと待って、誤解してる……!」
「では、健闘を祈る!」
空間が白から金色に変わった。
耳の奥で、遠く鐘の音が鳴った気がした。
「え、いや、神様――!」
意識が吸い込まれるように沈んでいく。
そして、次に目を覚ましたとき、俺は――
畳でもフローリングでもない、どこか柔らかくてふかふかした床の上にいた。
(第4話につづく)
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