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少年たちの誓い、夜の小競り合い

都の夜は静かだ――と、思っていた。

でも、それは表面だけのこと。

裏では、いろんな勢力が“密かに”蠢いていた。


俺は今、その渦の只中にいる。


「お前、本気で動くつもりか?」


清盛が、薄暗い路地で眉をひそめて聞いてくる。


「動くさ。小夜や斎子姫を守るためにも、手をこまねいてるわけにはいかない」


「ぺた道、極まってきたな」


「……なんだその言い方。バカにしてる?」


「いや、ちょっと感心してんだよ。変態がここまで真剣になるとは思ってなかった」


清盛は笑ったが、目は真剣だった。


「で? どうするつもりだ?」


「忠方ってやつの動き。調べてみたい。どうせまた裏で何かやってる」


「……じゃあ、今日の“若者の集い”が丁度いい」


「“若者の集い”?」


「ああ、摂関家の坊っちゃんや、公家の跡取りたちが、表向き“友誼を深める会”を開いてるんだ。

けど実態は、次代の派閥の立ち上げみてぇなもんだ」


「なるほど……」


清盛が用意してくれた簡素な直垂ひたたれに着替え、髪を束ねる。


「よし、いっちょ未来を変えに行くか」


京・東山にある藤原氏の別邸。

灯籠に照らされた庭を抜けて、俺と清盛は屋敷に入った。


中には、年の近い貴族の若者たちが十数人。

その中心にいたのは――藤原忠方の甥、藤原定信だった。


「おや、平殿に加藤殿。ようこそ」


「……なんだ、来てたのか、忠方の血縁」


清盛の顔が固くなる。俺も自然と身構えた。


定信はにこやかに笑ってみせたが、目の奥は笑っていなかった。


「さて、本日は“若者の未来”を語り合う日。お二人のような新進気鋭の武士・文官が揃えば、場も締まります」


「俺は別に締めに来たわけじゃないけどな」


「……私も、胸を張るような立場じゃないので……」


「なるほど、胸は張らずとも“心”で語る、ということですか?」


(……やっぱり知ってるんじゃねーか、俺の趣味)


会話は丁寧だったが、水面下の探り合いがひしひしと伝わる。


酒が進み、若者たちが談笑し始めたころ――定信が唐突に切り出した。


「ところで。皆様、“ぺた思想”というものをご存知ですか?」


(きた……!)


「最近、都の一部で流行っている“胸にこだわらない美意識”だとか。

ある筋では、それが“反・院政的”思想として危険視されているとも」


周囲がざわつく。


「ふむ……妙な話じゃ」


「けど、胸を気にしないって、ある意味平等では?」


「いや、やっぱり女は出るとこ出てないと」


――騒がしくなる場内。俺は静かに立ち上がった。


「その“ぺた思想”は、私が提唱しました」


「おお……加藤殿、ご本人でしたか」


定信の目が細くなる。


「では伺いましょう。何故それを唱えるのです?」


「貴族だろうが農民だろうが、姫だろうが娘だろうが。

“胸”でその価値を決めるのは間違っていると思ったからです」


「ふむ……道徳的ですね」


「加えて、戦の時代を迎えるならこそ、しなやかな者こそが強い。

それを“ぺた”に象徴させて、私は言いたい。――変化を受け入れる覚悟の象徴です、と」


会場が静まりかえる。


誰かが拍手を始めた。


それは、清盛だった。


「……よく言った、清光。お前、やっぱ面白ぇわ」


「ありがとうございます」


定信は、わずかに口元を吊り上げた。


「では、貴殿がこの思想を用いて、都をどう変えるおつもりで?」


「思想に政治的意図はありません。ただ――誰もが生きやすい世を、目指したい。それだけです」


定信はゆっくりと酒を口に運んだ。


「貴殿の理想、我々も見届けましょう。

――もっとも、それがどこまで生き延びるかは、時の流れ次第ですけどね」


敵意をはらんだ笑顔。

だが、俺は臆さず言った。


「“ぺた”は、粘りますよ。出る杭は打たれても、平らな地面は広がっていくんです」


清盛が爆笑し、若者たちの中にも笑いが広がった。


その夜、俺たちは小さな勝利を得た。

でも、それはきっと――戦の始まりに過ぎなかった。


(第19話へつづく)



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