表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/67

武士と貴族、ぺた談義

朝――。


京の空は霞みがかかっていた。

どこからか梅の香が漂い、軒先には燕が巣を作っている。


「ふぁあ……」


縁側で伸びをしながら、俺は考え込んでいた。


(昨日の、斎子姫との会話……)


彼女は静かに笑って、俺を肯定してくれた。

まるで、自分の“ぺた”も、受け入れられたと安心しているような、そんな柔らかな笑みだった。


(やっぱり、ぺたは癒しだ……いや、信仰だ!)


「おーい、清光ー! 起きてるかー!」


屋敷の外から聞き慣れた声がした。


「……清盛!」


またもや元気な声とともに現れたのは、鷹を連れた平清盛その人だった。


「お前、暇そうだな。今日はな、“武士”の話をしてやる」


「……急に?」


「急じゃねぇ。お前、都の貴族ばっか相手にしてるだろ? たまには汗臭ぇ連中とも付き合え」


俺は頭を掻いた。


「まあ、構わんけど。どこ行くんだ?」


「武士たちの訓練所だ。うちの郎党が集まってる。面白ぇぞ」


昼前。

清盛に連れられて向かったのは、都の西、賀茂川近くの開けた草原。


「おう、皆! 今日は珍客だ。加藤清光って言ってな、ぺたが好きな変なヤツだ」


「おいっ、紹介の仕方おかしくない!?」


「変わってるけど、悪いヤツじゃねぇ。皆、仲良くしてやれ」


そこにいたのは、馬を手入れする若者、弓を張る兵、槍を構える老練な武士――

雑多で、泥にまみれた連中ばかりだった。


「こいつが都の貴族……? えらい小柄だな」


「なんか、頭に変な飾りつけてるぞ」


「センサーです。ぺた感知用の」


「やっぱり変人か……」


――すでに空気がヤバい。


「お前ら、清光の話、ちゃんと聞いてやれよ。こいつな、斎子内親王の前で“ぺたは魂”って叫んだんだぞ」


「は……?」


「いや、ちょっと清盛、それ言い方が!」


「マジで?」「皇女の前で変態言うとか」「尊敬するわ!」


なぜか盛り上がる武士たち。

……うん、貴族より性格いいなこいつら。


「でよ、清光。貴族ってのはさ、皆“胸の大きい女”が好きなんだろ?」


「まあ、概ねそうだな……でも俺は違う!」


俺は仁王立ちして叫んだ。


「貧乳こそ至高! 平坦な地平こそ、真の美!」


「はっはっはっは!!」「なんかすげぇ!」


武士たちは爆笑していた。


だが、その中の一人――

白髪交じりの、腕に古傷のある男が口を開いた。


「坊主。……貧乳が好きってのは、構わん」


「えっ、ほんとですか!?」


「だがな。女を“胸の大きさ”で語る時点で、お前はまだ半人前だ」


場が静まった。


「……!」


「胸に惹かれるな。心に惹かれろ。それが“女を娶る”ってことだ」


「……それは」


「戦で負けた時、傍にいるのは、胸の大きい女じゃねえ。心の強い女だ」


言葉に重みがあった。


俺は、黙って頭を下げた。


「ありがとうございます。俺、……俺、心も見ます!」


「おう! がんばれ、ぺた信者!」


「ぺた武士、爆誕だ!」


清盛が肩を叩く。


「どうだった、兵たちは?」


「……すごく、まっすぐだった」


「貴族も、ああいう連中の気持ちを知れば、もっと良くなるのにな」


俺は、貴族と武士の狭間に生きる、この男の言葉に、少しだけ未来を見た気がした。


夜。屋敷に戻ると、斎子姫から文が届いていた。


『ぺたとは何か、教えてください。

斎子』


俺は震えた。


「こ、これが……布教の兆しッ……!」


こうして、変態と武士と姫の、奇妙な関係が、また一歩進んだ。


(第15話へつづく)

毎朝6時に投稿しますので、お楽しみに!

感想・評価など励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ