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隕石Xに愛を込めて  作者: 静水映
第一章
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幕間① 子育て奮闘記

 広大な『地下工場』の一角、硝子張りの機械の前でトウモリは小さく息を吐いた。


〈いよいよだな……〉


 グレイムは『管理室』からトウモリの様子を見守っている。


「資料も読んだ。正確な採寸は書かれていなかったが、あの子に合うようには調整ができたはずだ」


 トウモリは端末を叩き機械を起動させる。


――ビーッ。


 衣服用の高性能3Dプリンターは起動と共に、ノズルから液体状の繊維を放出する。

 やがて金型に付着した人工繊維が固まり、硝子の蓋が自動的に開く。


「ダイパー試作一号、完成だ」


 トウモリは白い乳児用の下着――おむつを手に取った。

 早速、『地下工場』を出て、グレイムと赤ん坊の待つ『管理室』へと急いだ。



              ♢   ♢   ♢



 赤ん坊が塔に来てから、すでに一週間が経っていた。

 哺乳瓶一つないこの塔での子育ては非常に困難を極めた。

 トウモリもグレイムも赤ん坊を世話した経験などなく、何とか資料を頼りにミルクを作って飲ませ、四六時中交代で世話をした。

 幸い、赤ん坊はだいぶ図太い性格をしており、トウモリはおろかグレイムにさえ怯えることはなかった。

 ただ、夜中には突然泣き出すことがあり、そうなったときはミルクを上げてもタオルを代えても駄目で、そのときは付きっ切りで一緒にいるとようやく泣き止んで眠ってくれた。


 生活も落ち着いたころ、トウモリたちはようやくおむつ作りに着手できた。

 それまではタオルを利用していたが、あらゆる面で弊害は出たのは言うまでもない。

 合間を縫って『ライブラリー』の資料を漁り金型を作成、僅か一日で量産可能な態勢を整えた。



              ♢   ♢   ♢



「終わったぞ!」


〈待ってたぞ、ブラザー!〉


 赤ん坊は小さなクッションを投げたりしゃぶったりして遊んでいた。

 ふさふさに生えた赤い髪、やや褐色の肌に宝石のような紫色の瞳、大事にされていた証か頬の肉付きが良く首が埋まっている。


「やっ、やっ!」


 赤ん坊は上機嫌にグレイムの体にクッションを投げつけ始めた。


「楽しそうだから、あとにするか?」


〈またいつ氾濫するか分かったもんじゃねえ。とっととつけようぜ〉


「それもそうか」


 トウモリはタオルの上に赤ん坊を寝かせた。


「あーっ」


 赤ん坊は遊びを邪魔されてやや不機嫌だ。

 ふんどしのように巻いているタオルを外すと、素早く試作おむつを装着する。


「……やァ」


 赤ん坊はなれない感触に戸惑ったようだった。


「泣かないな。上手くいっ――」


「……うああああああああああああああああああっ」


 そう思った直後、赤ん坊が絶叫をした。

 トウモリは悔しそうに声を漏らし、やむなく試作おむつを外してタオルに戻した。


「くっ……何が駄目だったんだ? 裏生地は肌にフィットするように人肌のような感触を意識したのに……」


〈それじゃねえか?〉


 グレイムは即座に突っ込んだ。


〈苦手なでも冒険するのはブラザーのいいところだけど、時には置きにいく堅実さも必要だぜ〉


「うっ……」


 トウモリは失敗を悔いたが、即座に立ち上がった。


「素材を変えてダイパー試作二号を作ってくる」


〈おう。ここは任せな〉


 当の赤ん坊は自分が泣いていたことも忘れ、クッション遊びに戻っている。

 トウモリは急いで『地下工場』に戻り、試作おむつを改良した。

 しかし、また結果は激しい拒絶だった。

 その後も試したが、結局、試作品はどれも赤ん坊のお目には適わなかった。



              ♢   ♢   ♢



「なにが駄目だったんだ……」


〈さあ、オレにもさっぱりだぜ〉


 小さな布団に眠る赤ん坊の姿を見ながら、二人は途方に暮れていた。


――チリン。


 そのとき、静かなチャイムの音が鳴った。

 液晶を見ると一人の青年がへこへことカメラに向けて頭を下げてきた。

 その背後には〝砂馬(すなうま)〟に引かせた商品の詰まった荷台もある。


「先月も来た商人か。さっさとお引き取りを願――」


〈待てブラザー〉


「……ああ、私も同じことを考えていたところだ」


 トウモリは即座にマイクの前に駆けて通話を繋げる。


〈こんにちは~。今回もいい商品を揃えてきたので、良かったら話だけでも――〉


「――その商談、受けよう」


〈……ええ?〉


 まさかの即答に商人の青年はその愛想笑いがなくなるほど驚いた。


 その後、トウモリたちは紙おむつを買うだけでなく、子育てに関する様々な知識をこの妻子持ちの商人から叩きこまれることになった。

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