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隕石Xに愛を込めて  作者: 静水映
エピローグ
34/34

旅立ちの歌を

「……準備はできたのか?」


「うん。トウモリ、行ってきます」


 スナマユは荷物をパンパンに詰めたリュックを背負い、エントランスを出た。


「行ってらっしゃい」


 トウモリの言葉に、スナマユは1度だけ振り返って手を振った。


〈お嬢、ハグの一つくらいしなくてよかったのかい?〉


 塔の外では1足先に、グレイムが屋根付きの荷車を持って待機していた。


「いいんだ。グレイムこそ、トウモリとの挨拶は済ませた? しばらく、会えないんだから」


〈オレはもう済ませてる。あの戦いがそうだったとも言えるしな〉


 総力戦から1カ月が経った。

 塔の所有権がトウモリに移り、晴れて自由となったグレイムは、スナマユと共に大陸を回る旅に出ることになった。


〈なあに。オレやブラザーにとっては、1年や2年、些細な時間だぜ〉


「ふーん。まあ、いいだけどさ。それにしても、いよいよかあ」


 スナマユは屋根付きの荷台には乗らず、『戦場』を歩きゲートを目指し始めた。


〈おーい。長旅になるんだぜ〉


「分かってるよ。でも、最初のうちぐらいは自分の足で歩きたいでしょ」


〈……そりゃあそうか〉


 グレイムとスナマユは並んで砂の大地を歩き始めた。


「ふんふんふーん♪ ふんふんふんふん♪」


 ゲートを出てしばらくして、スナマユが鼻歌を歌った。

 グレイムも良く聞く曲、それは塔の奏導術をアレンジしたスナマユの曲だった。


〈ふんふふん、ふんふん♪〉


「グレイムも歌えるんだね」


〈ああ、それが旅ってもんだからな〉


 まっさらな砂の大地に、足跡はどこまで続いていく。



              ♢   ♢   ♢



 そのころ、トウモリは『展望』に立ちから二人ことを見送っていた。


〈寂しくなりますのぉ〉


 トウモリの気持ちに寄り添うように、『精霊機獣』たちがキューブから次々と姿を現す。


「……そうだな」


 あの戦いにおいて、全ての『精霊機獣』を倒すことはこの後の塔の防衛を考えるうえでは、やはり必要だったのだろう。

 トウモリは本当の意味で彼らを指揮する立場になった。


「グレイムも去り、これからは私たちだけでこの塔を守らなければならない」


 あの戦いを経て塔は、完全中立の立場を表明した。

 参加者たちには、条件付きでの塔への入場が認められるようになった。


「今回の戦いで塔の手の内はほとんど割れてしまった。今は友好関係にあるが、この先『隕石X』の軍事力を知り、どこかの国がこの塔を奪いに来ないとも限らない」


 トウモリは腰を下ろし、『精霊機獣』たちと向かい合った。

 これまでグレイムが手を汚して守った塔の平穏を、今後は自分の手で掴み取っていかなければならない。


「少なくともスナマユとグレイムが帰るまではこの塔を守りたい。外交による立場の維持も必要だ。私の力だけでは足りない。君たちからも提案があれば言ってほしい」


〈――うん、任せて〉


〈俺たちの住処でもあるからな〉


 エプシテ以外の『精霊機獣』も次々と人型になり、話し合いに加わり始めた。



              ♢   ♢   ♢



 塔の止まった時は再び進み始めた。


 それから、月日は流れる。


 変わらない砂漠の光景も、風によって形を変える砂丘のように、少しずつ変化する。

 多くの人が行き交い、年月が流れる。

 塔に帰る者、塔に新たに住む者、塔で生まれる者、塔で静かに息を引き取る者……――。


 長い長い年月が流れる。


 その日も、一つの砂馬車が塔の前へとやってきた。

 塔の番人は訊ねる。


〈何をしに塔へとやってきた?〉


                               【終わり】


 最後まで読んでいただいてありがとうございました。

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