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隕石Xに愛を込めて  作者: 静水映
第七章
30/34

総力戦 ②

 数分後、各々が挑戦するゲートへと向かい始めた。

 やがて、各ゲートの連絡役であるサムイル、ミイサ、ジェイクが無線を使い準備完了の合図を送り合う。


〈――作戦開始だ〉


 ジェイクの号令と共に、各ゲートで名乗りを上げ、挑戦を宣言する。

 ゲートは一斉に開き、計60名の参加者が『戦場』へとなだれ込む。


 第一の関門。立ちはだかる『機械兵』。


 棍棒、槍、銃、盾――『機械兵』たちは、多様な装備で無駄なく配置されている。

 この3つのチームに『機械兵』相手に後れを取るようなチームはない。

 グレイムはそれを理解しており、巨大な盾という普段なら選択しない装備まで使い、時間稼ぎを狙った。


 当然、トウモリたちに求められるのはスピードだ。

 制限時間の30分のうち、この『第一エリア』に使えるのはせいぜい10分ほどだ。


 各チームは作戦通り、『機械兵』を次々と無力化させていく。

 『機械兵』の無力化には主に視界を塞ぐためのペイント弾や、青の奏導術による凍結が用いられた。

 熱で溶かすのは時間が掛かり、なおかつこちら側の体力の消耗も激しくなる。


 問題はこの砂漠において、(雨季でもない限り)空中の水分を利用した氷を使うのが困難ということだ。

 それも、『機械兵』の数が60体ともなればなおさらだ。

 しかしそこは、商人たちの用意した大量の水によって補われた。

 各チームは『戦場』に水入りの樽を持ち込んでおり、それを割ることで奏導術を使うための下準備を行った。

 その甲斐もあり、各チームは十二分に青の奏導術を振るうことができた。


 『機械兵』の処理に1番時間が掛かったのはトウモリたちの南チームだったが、何とか10分以内に『第二エリア』の手前までたどり着いた。


〈――南。『第二エリア』手前に到着〉


 他の2チームは無線で連絡を取り合いながら、足並みを揃えるため待機していた。

 その間に東(『聖歌隊』)チームの『聖歌隊』は、奏導術で炎弾をストックしておいた。


〈――西、了解。突入の準備はできている〉


〈――東、こちらも準備できました〉


 ミイサはそう返事をしながら、『聖歌隊』の方を振り返った。

 『第二エリア』突入は『聖歌隊』の状況を見て、ミイサが下すことになっている。

 演奏は続き、空中には3つの炎弾が完成している。


〈――『第二エリア』突入します〉


 全チームが同時に『第二エリア』を跨ぐ。

 見計らったように、6体の『精霊機獣』が配置についた。



              ♢   ♢   ♢



 北東ゲート、ミイサ部隊の前には『角兎』タウサツ、『猛虎』トウシラが立ち塞がっていた。

 宙に浮く竜のようなタウサツは、すでに件のアイナを奪う『黒球』を空中に2つほど用意している。『聖歌隊』が数分で用意できた炎弾のストックは3つ、もう1体の『精霊機獣』トウシラの存在を考えれば、頼りない数字だ。


(――大型奏導術の撃ち合いで相手に分があることは、前回の戦闘で分かっていました)


 ミイサは指揮を執りながら相手の出方を窺った。

 前回の戦い、ミイサが単身で『第三エリア』に辿り着いたとはいえ、『聖歌隊』は前回タウサツたちの手で壊滅している。

 もともと20人で挑んでいたこともあり、大きな強化も見込めない。


(グレイムさんからすれば、わたしたち『聖歌隊』との戦いは前回を踏襲すればいいだけの最も楽な防衛――そう、トウモリ様も言ってました)


 タウサツを主力に据え、あとは時間を稼ぐ役割をさらに相性のいい『精霊機獣』に変える。そのうえで、前回のように不意を打たれないよう気を付けるだけだ。


 時間稼ぎ役に選ばれたのは、青の奏導術を使う『猛虎』トウシラだった。


 トウシラは青の奏導術を使って、『聖歌隊』に襲い掛かった。

 凍てつくような冷気と細かい氷塊が、『聖歌隊』に向かって降り注ぐ。

 挑戦者側が『第一エリア』で使用した樽の水分のおかげで、トウシラも普段以上に力を振るうことができた。

 ミイサは炎弾を1つ使い、真っ向からそれを打ち消しにいった。


(雨季だった前回と違って、今回は大規模な氷の奏導術を使うとしても限界がある。必然的に赤の奏導術の出番が増える。それを狙ってのこの虎さんというわけですね)


 その隙にタウサツが黒球をさらに作って操る。

 『聖歌隊』の炎弾の作製に特化した『怒りの日(ディエス・イレ)』とトウシラの氷弾では、流石に聖歌隊に軍配が上がるだろう。

 だが、そちらばかりにリソースを割いていては前回の二の舞だ。


「『精霊鎮魂歌(スピリチュアル・レクイエム)』『最果てへの感謝の賛歌(サンクトゥス)』」


 『聖歌隊』は一層壮大なメロディと共に、すべてのボーカルが力強く歌唱を始めた。

 活気に満ち溢れた緑の光、それに青い光も降り注ぐ。

 風が巻き起こり、周囲に小さなきらきらとした結晶が浮かび上がる。


 黒球を無効化するためには、対となる緑の奏導術による風の力をぶつけるのが有効だ。

 『感謝の賛歌(サンクトゥス)』は緑の奏導術を主体としながらも、青の演奏も混ぜた混色の奏導術。

 風と冷気により雷を生み、蓄えた電力を対象に放つことができる。


 『聖歌隊』は前回の敗北を踏まえて、黒球に有効且つタウサツを撃ち落とすための切り札としてこの聖歌の演奏や歌唱の練度を極限まで上げた。

 ミイサはストックした炎弾を上手く周囲に逃がして、トウシラの攻撃に合わせて撃ち合いながら、タウサツを撃つための雷の力を蓄え始めた。


(相手は接近戦を捨てて、完全に遠距離の打ち合いに徹しているようですね)


 それは『聖歌隊』を守る騎士たちを、死に札にさせるための作戦でもあるのだろう。

 彼らは配置を守りそのときを待つ。

 ミイサは懸命に指揮を執り、2体の『精霊機獣』の長距離攻撃に応戦し続けた。

 じわじわと、アイナを消耗しながら……。



              ♢   ♢   ♢



 北西ゲート、冒険者チームには『龍馬』ミウマビ、『神仙』エプシテが立ち塞がっていた。


 ミウマビとエプシテの戦略はシンプルだった。

 ひたすら接近戦を行い、ヴァルトルーデに大技を打つ隙を与えない。

 無論、接近戦ではスナマユやジェイク、エリーズ、侍たちが得意としている。

 ミウマビは圧倒的な速さ、エプシテはその長い手足を使った武術で襲い掛かってきた。


〈どうした? スナマユ嬢〉


 エプシテは軽快に喋りながら戦ってくる。


――パンッ。


 拍手をするだけで、エプシテの纏う白い繊維が自在に伸縮する。

 繊維は身に纏うことで肉弾戦にも適応できる。

 人間よりも優れた体格から繰り出される拳法に、周囲は咄嗟には対応できなかった。

 スナマユもその硬い拳を受け流すのが精いっぱいだった。

 エプシテはスナマユとヴァルトルーデ、ジェイク、リウギク出身のサムライの隊長格であるイシザキの4人を同時に相手にしていた。

 体を覆う糸は密集すると鉄のように硬く身を守り、時には糸として伸びては相手の足を救ったり杖や武器を弾き飛ばしたりした。


「エプシテ、つっっよ」


 スナマユは息もつかせないその手練手管に、一周回って感動さえしていた。


〈そうじゃろう。そうじゃろう!〉


「……って、感心してる場合じゃない」


「そうよ。あんたの今後が関わってるんでしょ?」


 ヴァルトルーデも発破をかけるが、直後も自身も杖を飛ばされた。

 白い精霊たちが自発的に体を守ってくれるものの、ヴァルトルーデは白の精霊たちを攻撃に使わないため攻め手に欠けた。

 その間にもミウマビが周囲の助っ人たちを蹴散らしていく。


「まずいぜ、これは!」


 ナゼールが思わず叫ぶ。

 このチームは元より素人が多い。

 速さを売りとするミウマビ相手には、文字通り手も足も出ない。


「ジェイク、まだなの?」


 ヴァルトルーデが思わず訊く。


〈ほう。なにか作戦があるのか?〉


 エプシテがそれを聞いて、愉しそうな声を上げる。


「まだだ!」


 ジェイクはエプシテに斬り掛かりながら答える。

 そのとき、ジェイクの鎧に付けた無線機をエプシテの糸が絡み取って、剥ぎ取った。


〈仮に何かの合図を待っているというなら、こうした方がよさそうかの?〉


 ジェイクは苦笑しながら、なおもその瞬間を待った。



              ♢   ♢   ♢



 南ゲート、サムイル部隊の前には『火鼠』ネイシズと『霊鳥』トドグリが立ち塞がった。


 ネイシズは口から無数の獰猛なネズミを生み出し、軍隊に襲い掛かった。

 トウモリは落ち着いて、まずは周囲の兵士たちと共に黒の奏導術で土壁を作った。

 進路を塞がれた鼠たちは、壁を一斉に齧り始めた。直線的な動きしかできない鼠たち相手にはこういったシンプルな妨害が一番効く。

 とはいえ、壊されるのは時間の問題だろう。


「トウモリ、来たぞ」


「ああ、任せろ」


 鼠たちが壁に穴を空けるより先に上空からトドグリが姿を現した。


「私の相手は君だな」


 トウモリは一番愛用していた『精霊機獣』の姿を見て、小さな笑みを浮かべた。

 緑の奏導術を使い、トウモリは1人空を舞った。


「援護はいるか?」


「いいや。計画通り合図があるまで、君たちはネイシズの相手に専念しろ!」


 トウモリはそう答えながら、トドグリとの一騎打ちに挑んだ。

 トドグリの体が水色に輝く。

 緑と青の奏導術を同時に唱えることで生まれる『雷の槍』、トウモリはそれを青の奏導術によって生み出した水の道で横に逸らす。

 並行して時折、黒の奏導術で細長い土壁を創り出し、それを足場に使うことで空中に留まる。

 トウモリは唯一人でトドクリの意識が他に向くのを防いだ。


 ハクタナ軍はその間も自分たちで壁を作り、鼠の進行を防いでいる。

 防戦一方ではあるが、大技のないネイシズもそれを突破できずにいた。


 その頃、グレイムは展望から戦場を俯瞰して見ていた。

 3つのゲートの様子はどれも想定した通りだ。



              ♢   ♢   ♢



〈ブラザー、お前が指揮を執ってるにしてはあまりにも作戦がお粗末じゃねえか……〉


 『精霊機獣』たちが優勢、相性の関係で挑戦者たちはポテンシャルを発揮できずにいる。


〈いや、ここで終わるはずがねえか〉


 グレイムは笑い、『展望』から飛び降りた。

 すでに配置は終え、待機させていた『機械兵』もすべて出動させた。

 あとは、『第三エリア』で待つことにした。


 自分と全力を出し合うと約束した1人の男が、戦場までやってくることを――。

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