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隕石Xに愛を込めて  作者: 静水映
第一章
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塔の番人 ②


              ▽   ▼   ▽



Ⅰ 塔の試練を突破する者、新しい塔の『支配者』となる。


Ⅱ 参加人数は1人から20人までとする。その人数によって、塔側の戦力も調整される。


Ⅲ 塔への挑戦と参加人数を宣言し、ゲートから入場したら挑戦開始となる。実際に入った人数が宣言よりも少なくても塔側の戦力は変わらないが、宣言よりも多い人数が入った場合、挑戦は無効となる。


Ⅳ 戦場の中央に形成される『決闘場(コロシアム)』、そこに現れる『支配者』を倒せば、試練の突破となる。


Ⅴ 制限時間は30分。それを過ぎた場合、試練は失敗となる。


Ⅵ 外壁から外へ出た場合、それは戦闘の放棄と見做され、同試練中の再入場は禁止される。全員が戦闘を放棄した場合、試練は失敗となる。



              ▽   ▼   ▽



「行くぞ!」


 サムイルの号令と共に、兵士たちがゲートを通過した。

 周囲の砂丘とは異なり、ゲートの内部は薄い砂で覆われた平地となっている。

 平地には背の低い鉄の壁――意図的な遮蔽物が、いくつも配置されている。

 兵士たちは塔目指して壁を避けながら、塔に向けて駆けて行く。

 ただ塔にたどり着くだけなら、その距離は500メートルにも満たず5分ほどで足りるだろう。

 しかし、〝試練〟というからには必ず障害が付きまとう。


――ゴゴゴッ。


 砂の大地が何カ所も隆起し、中から二足歩行のロボットが姿を現す。

 鈍色の体に黒いガラス越しに1つ光る青いカメラの瞳。

 片手には棍棒、片手には丸い盾が握られており、彼らは一斉に軍人たちの方を向いた。

 さらにその後方から、槍を装備した一団も現れる。


――塔の試練、第一の関門『機械兵』。


 遊び半分で挑戦した者の多くは、まずその姿を見て後悔する。

 実際に目にすると、1メートル50センチの機械の体と金属で作られた武器は、いとも簡単に命を奪える脅威であることを本能が理解する。


 大量の『機械兵』は早歩き程度の速度だが、確かな敵意をもって挑戦者に襲い掛かった。

 チームの中でも体格の大きな男たちが、『機械兵』に真っ向から立ち向かう。

 30体近くいる『機械兵』に対して、前線を戦う兵士は僅か5人。

 彼らは盾を構え、攻撃を受けながら、隙を見て『機械兵』の物より一回り大きな鉄の棍棒で反撃する。


「他は足を止めるな!」


 『機械兵』はオート操作の場合、近くにいる敵を自動で攻撃する。

 前線の5人が『機械兵』を引き寄せている間に、残る兵士たちは迂回して先へと進む。

 戦場は大きく3つに分けられる。

 まずは最も外周に当たる『機械兵』のいるのが『第一エリア』だ。

 挑戦者の目的地は塔の中央付近、『決闘場(コロシアム)』の形成される『第三エリア』、そこまでの道のりは通過点に過ぎない。

 つまり、道中の敵を無視して進めるのならば、それに越したことはない。



              ♢   ♢   ♢



 サムイルたちハクタナ軍は鉄の敷居を跨ぎ、『第二エリア』へと足を踏み入れる。


「隊長、来ます!」


 その直後、先頭を行く兵士が叫んだ。

 一つの大きな影が、兵士たちの頭上に迫る。


「――来やがったか!」


 翼を生やした巨大な獣が、兵士たちに向けて襲い掛かる。

 その獣の皮膚は灰色の金属のような外皮で覆われていた。全長3メートルはある巨大な翼、獣の胴体に4足、細面の顔の大きな口には鋭い牙が並んでいる。


 ――グオオオオッ。


 響き渡る獣の咆哮。

 その圧倒的な迫力には、流石の兵士たちも少なからず動揺した。

 獣の翼に数人の兵士たちが薙ぎ払われる。

 速度と重量、その硬さから、鉄の塊に殴られたようなものだ。

 直撃した兵士たちは地面に転がり呻き声を上げた。


「……化け物だ」


 一人の兵士が呟いた。


――塔の試練、第二の関門『精霊機獣(せいれいきじゅう)』。


 『精霊機獣』とは奏導術を使う伝説上の生物のことだ。

 塔に伝承を模した人口兵器がいることは、兵士たちも事前に知っていたことだ。

 だが、実際に相対するとなると、その姿は余りにも凶悪で兵士たちの動きを鈍らせた。


「怯むな! 撃て!」


 サムイルの号令に兵士たちが銃によって必死に反撃を試みる。

 すると、意外にも獣は声を上げて上空へと撤退した。灰色の硬い外皮は削れ、目に見える傷が残っている。

 その反応に兵士たちに士気が戻る。


「距離を取ってくれるのは好都合だ。全員構えろ!」


 そうして、全員の視線と銃口が上空に向けられたとき、耳をつんざくような金属音が鳴り響いた。

 高速で動く何かが兵士たちの体を一斉に弾き飛ばす。

 兵士たちの目には赤い光の残像だけが映り、次の瞬間には地面に倒れていた。


「ぶ、無事か?」


 サムイルは立ち上がり、周囲を見渡した。

 見ると兵士たちは倒れてこそいたが、重傷を負っている者はいない。サムイル自身も、体に痛みと僅かな熱を感じたが、ぶつかった物の速度から考えると軽傷といっていい。


「隊長、六時の方向です」


 兵士の1人がそう言った。

 サムイルが振り返ると、第一エリアの方に1体の灰色の馬が立っていた。

 2体目の『精霊機獣』だった。

 馬は微かに赤く発光していたが、やがて青く発光し、蛇のような長い舌の出ている口から蒸気が漏れ出ている。


「赤く見えた体が青く光り、低音が微かに聞こえる。赤の奏導術による熱で加速、青の奏導術で冷却といったところか……動きは速いが持続力があるわけではない」


 サムイルの考察は、無線によって共有されていた。


「作戦通り『機械兵』の足止めは続行。お前たちは鳥の『精霊機獣』の討伐に専念しろ」


 サムイルは構えていた小銃を捨て、腰に差していた短刀を引き抜いた。


「あの馬は……俺1人で何とかする」

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