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隕石Xに愛を込めて  作者: 静水映
第六章
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決戦前夜 ③

 トウモリはそれから多忙な日々を過ごした。

 フローティアから購入した携帯電話を使い外部との連絡を取りながら、自身は塔への挑戦に向けて外で奏導術の訓練を行った。

 塔の管理者として有事に備えて訓練は行っていたが、実戦経験はほとんどない。


 奏導術を扱う上での精神面での安定も、盗賊の1件でまだまだ未熟だと思い知った。

 自分の得意な術を繰り返し練習しながら、『ライブラリー』でこれまでとは違う奏導術の技術も学ぼうとした。


 繰り返される塔の生活とは違う、新たな景色を見るための戦い。

 スナマユの成長を見守る日々とも違う、自分の血肉を削るような訓練の日々だった。

 地道な繰り返しも砂漠の熱さも、トウモリにはすべてが新鮮だった。

 思えば、トウモリは以前からどこか挑戦者に肩入れしている部分があった。


 軍人たちの厳格さと鍛え抜かれた心身に憧れた。

 冒険者たちの友情と自由を求める強さに憧れた。

 聖職者たちの情熱と信仰心に支えられた連携に憧れた。


 トウモリが挑戦者への期待と一緒に虚しさを感じていたのは、そこに立つ自分を無意識に夢見ていたからかもしれない。



              ♢   ♢   ♢



 その2か月間は瞬く間に過ぎて行った。

 トウモリは募集した人員の名簿を見て戦略を練り、日程や資金の調整に明け暮れた。

 サムイルを始めとする各陣営の顔役とのやり取りも頻繁に行われた。


 そして、約束の2カ月が経つ前日、各地から軍用車両や砂馬車が集まり始めた。

 初めに到着した白い国旗を掲げたハクタナ軍に、続いて到着した黒と金の国旗を掲げたポクニス聖国の一団は大所帯で、まるでこれから戦争でも始めるような迫力だ。


 夕方、最後にやってきたシレオン王国の冒険者たちやその縁者たちは、フローティアの率いる馬車に連れられており、一転して観光用のキャラバンといった出で立ちだった。


 各陣営はテントを立て、その日の夜を超すための準備を始めている。

 トウモリはその様子を第五層の『展望』から眺めていた。

 すると、エレベーターの扉が開き、グレイムが隣に並んだ。


〈壮観だな。こんな人数が集まったのは、冗談抜きに100年以上ぶりだぜ〉


「ふふっ。これを見れば私が何をするつもりか、流石に分かるだろう」


〈そりゃな。どう見ても20人の部隊を編成するための集めた人数じゃねえ。3つのゲートから同時に挑戦を行う『総力戦』をやる気だな〉


 グレイムの声も心なしか少し浮ついていた。

 『総力戦』――それはルールに規定があるわけでもないが、時折『タワーディフェンス』で行う特殊ルールのため、両者が共通の認識を持っていた。


 この外壁には3つのゲートがあり、そのどこから挑戦してもいい仕様になっている。

 ならば、60人を集めて、そのゲート3つから同時に攻めれば?

 というのが、『総力戦』の発想の根本にある。

 この場合、挑戦者側には明確なメリットが発生する。


 『機械兵』60体のスロットは、各ゲート前にあるため数が減るわけではないが、『精霊機獣』に関しては別だ。

 本来二十人の挑戦なら『精霊機獣』3体を相手にしなければならないところが、合計6体しかいない関係上、理論上は2体を相手にするだけで済む。

 もちろん、塔の挑戦のためだけに60人を集めること自体が至難の業であり、これまで実現したことは1度もなかった。


〈フローティアも相当頑張ったんじゃねえか?〉


「そうだな。サムイルが偶然この時期に挑戦しに来てくれたのもありがたかった。今は和平協定を結んでいるとはいえ、ハクタナとリウギクの間を取り持つには、どうしてもハクタナ側の人間が必要だった」


 トウモリは大陸の人々が一同に集うこの光景を見下ろす。

 砂漠に灯るテントの明りは夜空に輝く星々のようだ。


「グレイムは空を見るのが嫌いか?」


 トウモリは目覚めたばかりのころ、よく『展望』で星を見ていた。

 当時、どんな時も一緒にいてくれたグレイムが、星を見るときだけは塔の中に引き籠っていた。


〈……今ではあまり見なくなったな〉


「でも、君は沢山宇宙の話をしてくれた。それだけじゃない。砂漠の外にある海や山、ここにはない景色の話をしてくれた」


〈思えば、残酷なことをしたな。塔に閉じ込めてる当人が外の話をするなんて〉


「そんなことはない」


 トウモリはグレイムに感謝していた。

 彼は外を夢見させてくれた。

 自分の持つ塔の外への関心を押さえつけることは決してしなかった。

 きっとそれは、グレイム自身が――……。


「グレイム、私は星を見るのが好きだ。それに気付いたのは、スナマユを拾いに外に出たときだった」


 あのとき、老人が命懸けで届けた赤ん坊を拾ったあと、世界がとてつもなく広く思えた。

 孤独だと思っていた世界には、沢山の命があることを実感した。


「私は君にも、そう思ってもらいたいんだ」

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