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隕石Xに愛を込めて  作者: 静水映
第六章
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決戦前夜 ②

――時は少し遡る。


 トウモリは宣戦布告をした当日、グレイムの元に向かった。

 グレイムは植物園で土いじりをしていた。

 グレイムは時折、花壇の配置をその時の気分で変える癖があり、そうなると周囲のことに鈍感になる。


「グレイム、ちょっといいか?」


〈どうした、ブラザー〉


 トウモリは話を聞いていなかったことを察して、肩透かしされた気分になる。


「さっき、ハドリーの娘が挨拶に来た」


〈おお! なんで呼んでくれなかったんだ〉


「話し込んでしまってな。これについては、スナマユにもあとで怒られるだろう」


 トウモリは小さく咳払いをして本題に移った。


「グレイム、私は塔に挑戦しようと思う」


〈……ん?〉


「本気で言っている。この二か月後以内に、私は仲間を集ってこの塔に挑戦する」


 グレイムはそれを聞き、返事困っているようだった。


〈……自由にしていいとは言ったが、それはどういう目的だ?〉


「それは言えない。ただ、私がこの勝負に勝てば、私がこの塔の『支配者』になる。それだけの話だ」


〈……なるほどな〉


 グレイムは土いじりのしゃがんだ姿勢から腰を上げた。


〈それはオレを自由にしてやろうとか、そういう考えか?〉


 言葉の端に怒りが滲んでいるように聞こえるのは、きっと気のせいじゃない。


「それもある。だが、それだけじゃない」


 トウモリは極めて冷静にその感情を受け止めた。


〈……そうか。それだけじゃないなら、止められねえな。それで、わざわざそれを告げたってことは協定でも結ぼうってことか?〉


「話が早いな。同じ建物にいる以上、互いの手が筒抜けになりかねない。不毛な情報戦になるのは互いの望むところじゃないだろう。くだらない細工を警戒する必要も無くなる」


 グレイムがその気になれば、トウモリとフローティアを始めとする、この後集う予定の仲間たちのとの会話等をすべて盗み聞くことができる。

 逆にトウモリも、この塔に住んでいるからには『機械兵』や『精霊機獣』に細工をすることは難しくない。

 盤外戦術の応酬となれば、それはもう試練とは呼べない。

 少なくとも、トウモリの望んだ戦いではない。


〈なるほどな。いいだろう。この2か月は不可侵ってことで、オレは『管理室』に立ち寄らない。その代わり、ブラザーも『地下工場』や『機械兵』の管理はオレに任せてくれ〉


「分かった。もちろん、当日集まった人間から、戦力を分析するのは自由だ。そうでなければ、そちらが不利になるだけだからな」


〈おう。言わなくても、全力で防衛させてもらうぜ〉


「そうしてくれ。こちらも本気で挑むつもりだ」


 これで条件は整った。


「情報戦も戦いにおける重要な側面ではあるが、今回ばかりなはな」


〈ああ、分かってる。ブラザーの楽しみたい気持ちは伝わってくるぜ〉


 ここから先は口にするだけ野暮ということだろう。

 トウモリはグレイムに背を向け、今度はスナマユの自室へと向かった。



              ♢   ♢   ♢



「入ってもいいよー」


 スナマユの部屋をノックすると、元気な声が返ってきた。

 スナマユはベッドに寝そべってゲームをやっていた。

 その目には若干クマができており、あまり睡眠をとっていないことが伺えた。


 事件以来、スナマユはずっとこんな調子だ。

 幸い視覚と聴覚の障害は、1時的なものだった。

 ただし、耳の1部や腕や体に残った傷には深いものがあり、それは奏導術をもっても癒すことはできなかった。

 その痛ましい傷跡はスナマユが心に負った傷を表しているようだった。


「ちょっと、話をしてもいいか」


「……うん」


 トウモリはベッドに腰を下ろし、スナマユもゲームを止めて座った。


「実は2か月後、私は塔に挑戦することにした」


「えっ?」


 スナマユは目を見開き、それからこめかみを押さえた。


「どういうこと? 塔の番人のトウモリが、塔に挑戦するの?」


「実際の塔の『支配者』はグレイムだ。問題はそこじゃない。私が戦って勝つことは、グレイムをこの塔から自由にするという意味がある」


 スナマユはそれを聞くと、目元を手で覆うようにして恐る恐る聞いた。


「……グレイムはなんて言ってるの?」


「言葉にはしなかったが、おそらく、困惑しているだろうな。グレイムにとって、この塔を守るということが一種の生きる目的になっているからな」


「……喧嘩になってる?」


「なってないよ。ただ、戦いは全力でやる」


 スナマユはそれを聞いて目に涙を浮かべた。


「ぼくはどっちの味方をすればいいの?」


 トウモリはできるなら、2人の戦いを見守ってほしいと言いたいところだった。

 だが、それはどうしてもできなかった。

 この戦いに勝つため、トウモリにはスナマユの協力が必要だった。


「スナマユにはチームの一員になって協力してほしい。実はハドリーの娘、フローティアが今日来て、彼女にはすでに人員の募集を頼んでいる」


「えっ……どうしよう」


 スナマユは動揺して視線を泳がせる。


「実はグレイムには言っていないんだが、マモリは私に一つの役目を残している」


 トウモリは自分の推測をスナマユに話した。

 できるだけ丁寧に、そして、スナマユにやってほしいことを伝えた。

 それを聞いて、スナマユはボロボロと涙を流した。

 しばらく声を上げられないくらい、嗚咽を上げ続けた。

 それでも、やがて涙を拭い、スナマユは枯れた声を絞り出した。


「……トウモリは、それでいいの?」


「ああ。私はその覚悟ができている。それに、実を言うと、私はこの塔の仕事が気に入っているんだ」


「……そっか」


 スナマユはそれを聞くと、寂しそうに笑った。


「そういうことなら、ぼくも全力でやるよ」


「……ありがとう」


 トウモリがスナマユを抱きしめると、スナマユは抱きしめ返し、それからまた少しだけ涙を流した。

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