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隕石Xに愛を込めて  作者: 静水映
第五章
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隕石Xの物語 ①

 『ライブラリー』の照明は落とされ、壁に掛けられたスクリーンが照明に照らされる。


〈まずは2人とも。あれから、結構待たせることになったのはすまなかった〉


 グレイムは準備しておいた動画を再生するにあたり、スクリーンの横に立つと小さく挨拶を行った。


〈これから流す映像は、オレがどうしてこの塔の『支配者』になったのか、その経緯を実際の映像を元に再構成したものだ。どうか、最後まで静聴してほしい〉


 グレイムは頭を下げて座席の後方へと移動する。


「映画でも始まるみたいな感じで、少しワクワクする」


 あの事件以来、元気のなかったスナマユも、グレイムの挨拶に期待を膨らませている。


「……ああ。不覚にも」


 トウモリは自分の出生が語られるというのに、どこか浮ついた気分になっていた。


(盗賊たちの後のようなテンションで語られても、重苦しいからこれでいいか……)


 そんなことを考えているうちに、スクリーンでカウントダウンが始まった。



 5、4、3、2、1――。



 霊暦XX61年、7月8日。

 ノヴァ大陸連合所属のリウギク自治国ロルビス地区の農耕地に、1つの隕石が落下した。

 近くには住宅地もあり、通報を受けた地元の警察機関は辺りを封鎖して、鈍色に輝くその珍妙な鉱石を隔離したという。


 解像度の低い写真がプロジェクターに映し出される。

 それは当事のテープで隔絶された現場の様子のようだった。

 有名なリウギクのクレーター。

 それに関する眉唾物の当時の報道、政府の見解などの映像が次々と流れていく。

 映像が1度、途切れる。


〈この『隕石X』こそが、オレの母体となる巨大な精霊石だった〉


 録音されたグレイムのナレーションが入る。

 1枚の写真、巨大な灰色の鉱石が映し出された。

 周囲にいる人間の大きさから考えると、全長は五メートルくらいだろうか。


〈政府より解析を依頼された学者の一人、精霊学者のマモリが『隕石X』に宿る意思に気付いた。この鉱石は生命と同じアイナを有していた〉


 続いて、プロジェクターの映像が切り替わり、白衣を着た1人の男性の姿が映る。

 黒髪に精悍な顔立ち、年は20代後半といったところだろうか。

 写真に写る人々の中ではだいぶ若く見えた。

 その男性は写真では、鉱石に手を当てて何かを話している――話しかけているようだ。


〈マモリは意思を持つ『鉱石X』の研究を任命され、クレーターから鉱石を移動させて、砂漠に建てた研究所に住み込みで働くことになった〉


 研究の様子が映し出される。

 マモリが『鉱石X』に機械を当て、液晶越しに反応を待っているのが分かる。


〈この時のことは、朧気だが覚えている。まるでオレは暗い水の中に漂っていて、一筋の光が差すようなそんな感覚だった。遠くから音が聞こえた気がした。オレはそれに応えるようにして音を返す――そんな日々だった〉


 続いて、切り出された鉱石の姿が映し出される。


〈その後、意識の存在が明確となると、研究は1度マモリの手を離れた。ノヴァ大陸連合が介入し始めたのもこの頃らしい。この研究の段階で、鉱石が箇所によって別個の意思を持っていること、適切な大きさに切り出せば、それが失われずに独立することが分かった〉


 見ようによっては残酷な研究が、移り変わる写真で表現される。


〈マモリは切り出された鉱石の中で、最も大きな個体を引き取って研究することになった。それに当たり、マモリは鉱石に名前を付けた。その名は『グレイ』――『グレイ』には、自律的な行動を行うための特殊な金属の体が与えられた〉


 そして、見慣れたグレイムの体が映し出された。


〈その巨体から、生みの親であるマモリも含めて、チームの研究者たちは『グレイ』のことを『グレイム』と呼び始めた〉


 グレイムが奏導術を使う映像が映し出される。

 グレイムの核である精霊石――『隕石X』は、その音に合わせて輝きを変えた。


〈オレがすべての奏導術を扱えるという結果は、当然、国にとって衝撃的なものだった。この塔が建てられた理由も表向きでは宇宙開発、本当のところは兵器運用だった〉


 盗賊に対して行ったグレイムの報復。

 話を聞いただけでも、それが飛び抜けた武力であることは想像に難くない。


〈だが、当時の化学兵器はそれに輪をかけて強力でな。結局のところ、実戦投入の判断は下されなかった。その後、研究成果と『隕石X』の大部分がノヴァ大陸の連合に移動させられたことで、塔での研究は細々と続けられるだけになった〉


 続く写真にはグレイムと沢山の研究者たちが、笑顔で映っていた。


〈軍隊と一緒に、ほとんどの研究者がこの塔を去った。残されたのはオレとマモリ、それから『隕石X』で作られた『精霊機獣』たち……。あいつらはオレよりも活動時間が限られているせいで、緊急時以外は今のようにキューブに保管されていた〉


 スクリーンに『展望』に設置された『精霊機獣』を収納する球体が映し出される。

 当時からこれがあったのかと、トウモリは感動した。


〈あとは時折、カナタ……マモリの奥さんが来るくらいだった。忘れてた。たまに物資を運んでくれるパイロットのツムラもいたな。はっきり言えば、リウギクは完全にオレたちを持て余していた……〉


 再度、映像が消える。


〈ここからは、塔に残された記録を断片的につなぎ合わせたものになる〉


 グレイムは映像を見ながら、当時のことに思いを馳せた。

 約100年前、グレイムがまだ塔の支配者になる前の日々を――。

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