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隕石Xに愛を込めて  作者: 静水映
第三章
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聖職者 ①

 砂漠に雨季がやってきた。

 雨は血に汚れた戦場を洗い流す。

 トウモリはこの時期に、清掃を行うようにしている。

 数十キロ先の雨雲を捉え次第、スナマユと一緒に大急ぎで洗剤を使って床面や外壁を磨く。

 すると、雨が通り過ぎた頃には汚れが洗い流されるという算段だ。

 塔の内部を巡回する生活水や、塔の外周に使うための水の貯蔵も行える。


 スナマユは雨の時期はよく外で遊ぶ。


〈雪を見てはしゃぐ子供みてえだな。お嬢にとって、雨は期間限定のイベントってわけだ〉


 グレイムはその姿をカメラ越しに見ているのか、楽しそうに言った。


「雪か……この砂漠では無縁だな」


〈そうでもねえぜ。砂漠の夜は冷えるからな、条件が整えば雪が降ることもある〉


「グレイムは見たことあるのか?」


〈まあな。前回は120年くらい前だったな。砂の上に白い雪が積もるのは結構綺麗だぜ〉


「……そうか。それは、いつかお目にかかりたいものだな」


 この時期は商人のハドリーもあまり塔にはやってこない。

 それから、挑戦者もめっきり減る。

 おそらく、砂馬の足が逆に取られてしまうせいだろう。


「盗賊たちもようやく成りを潜めたな」


 トウモリは小さくため息をついた。

 ここ最近、リウギクから来る盗賊の一団が塔への挑戦を行うことが増えていた。

 彼らは建前こそは塔の支配権を欲していると言うが、実際は『機械兵』を破壊して部品を回収に来ているのだった。『第二エリア』に踏み込んで『精霊機獣』と戦うことすらない。

 根こそぎ部品を集めたら白煙灯を折って棄権する。

 そんなことが月に何回もあった。


「棄権ルールを追加した弊害か」



〈どうかな。以前からああいう輩はいた〉


「そうだったのか」


〈ああ。ただ、全員が途中で割に合わないことに気付いて止めてきた。解体の効率が上がったのと、燃費のいい足が手に入ったのも大きいだろうな。あんなでかい軍用車両を持ってるとはな〉


「『地下工場』の貯蓄に余裕はあるが無尽蔵という訳ではない。今後は対策を考えなければならないな。スナマユのためにも……」


 スナマユは盗賊が来ると部屋に篭ってしまう。

 彼女は単純に悪党が嫌いなうえ、自分の境遇に盗賊が絡んでいることも知っている。


 4年前、スナマユの身元は老人の身元から判明した。

 老人の名前はガンドウ。

 彼は『リウギク国』に住んでいたキャラバンの一員で、12年前に盗賊に襲われて以来、行方不明になっていた。

 生き残った団員の証言から、隊長の判断でガンドウはいち早く赤ん坊を連れて離脱したという。

 長い間、身元が分からなかったのは、生き残った団員が『ポクニス聖国』に亡命しており、リウギクやシレオン王国を拠点とするハドリーの情報網が、そこに辿りつくまでに時間を要したからだ。

 なお、スナマユの両親を含む利用客は散って逃げたため、その後の消息は分かっていないという。


〈こうも盗賊にうろつかれると、ハドリーや他の挑戦者たちにも危害が及ぶぜ〉


「ああ、いっそ立ち入り禁止にしてしまうか……」


 挑戦回数の制限、取得物持ち出し禁止、挑戦の有料化……。考えられる対策はいくつもあるが、ルールに手を加えるとなると、また新たな歪が生じかねない。


(新しいルールができるのは、こういうグレーゾーンで好き放題やる連中がいるときなんだろうな)


〈――ブラザー、集団がこっちに来てるぜ〉


 グレイムの報告でトウモリは思考を中断する。


(盗賊たちか?)


 しかし、トウモリの予想とは裏腹にその一団は見たこともない見た目をしていた。

 それは黒い亡霊の群れのようであった。

 大量の砂馬、足並みを揃える人々、掲げられる細長い金と黒の国旗。


「ポクニス聖国……」


 12年前のハクタナの小隊とは規模が違う。

 黒の修道服を着た人々が、黙視できる範囲だけでも30人はいた。

 その先頭で砂馬に乗った人物に、トウモリは覚えがあった。

 僅かに除く金色の髪と力強い青色の瞳、黒くて薄いベールで口元は隠れている。


「来たか。シスター・ミイサ」


 それは3年前、たった1人でこの塔に挑戦した1人の少女の名前だった。

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