漏洩
その後も、取り調べは小一時間ほど続いた。
その間、遊間は一言も口を挟まずに、ただ取り調べの様子を静かに眺めていた。
取り調べが終わり、遊間たちが部屋から退出しようとすると、浅瀬の傍らにいた刑事が遊間たちを呼び止めた。
「なんだ? 僕はこれから、失われた繋がりの正体を確かめに行くので忙しいんだ。つまらない用件なら、その後にしてくれ」
「ですが、あなたたちを決してこの部屋から出さないようにと浅瀬課長が……」
「決して出すな、だと? 何の権限があって、そんなことを……」
遊間が言い返そうとしたその瞬間、浅瀬が顔を真っ赤にして部屋に戻ってきた。
「貴様ら、とんでもないことをやらかしてくれたな!」
部屋に入ってくるなり、浅瀬は怒鳴り声を上げる。
「とんでもないことだと?」
怒鳴られるようなことに心当たりのない遊間たちは、皆きょとんとする。
「これを見ても、まだしらばっくれるとでも?」
浅瀬はそう言うと、一冊の週刊誌を机の上に叩きつけた。
雑誌のタイトルは「週刊レムリア」。
芸能人のスキャンダルから、企業や政治家の汚職疑惑、果ては真偽不明の陰謀論に至るまで、衆目を集めるためならどんなネタでも垂れ流し、日々世間を騒がせている悪徳週刊誌である。
「この三流週刊誌がどうかしたのか?」
叩きつけられた雑誌に侮蔑の眼差しを向けながら、遊間は浅瀬に尋ねた。
「どうしたもこうしたもない! 表紙のこの煽り文を読んでみろ!」
浅瀬の指さした煽り文に遊間は渋々目を通す。
沈黙の歌姫AKIHA、実は殺されていた?! 都民に忍び寄る、連続殺人鬼の魔の手。
警視庁大失態。止められぬ予告殺人。犠牲者は既に三名。
「ふむ、事件の情報が流出しているようだな」
「『ふむ、事件の情報が流出しているようだな」、じゃない!」
遊間の素知らぬ態度に、浅瀬の怒りが膨れ上がっていく。
「まさかとは思うが、僕たちが情報漏洩したとでも言いたいのか? 何の証拠もないのに?」
あらぬ疑いをかけられ、遊間も流石に不快そうな表情を見せる。
「貴様らが捜査に加わるまで、この事件に関する情報漏洩は一度も起こっていないのだぞ! 貴様らの仕業に決まっている!」
浅瀬の怒声が部屋中に響き渡る。
「それは少し暴論過ぎるかと……」
「お前は黙っていろ」
原木が遊間たちに助け船を出すも、浅瀬はそれをぴしゃりと押さえつける。
「とにかく、だ。こういうことが起こってしまったからには、これ以上、貴様らをこの事件の捜査に関わらせるわけにはいかん。現時刻をもって、コンサルタント探偵としての契約は終了とし、以後、貴様らの現場への立ち入りを禁止する」
「何だと?! 事件の謎が解けるまであと少しというところで、この僕を解任する気か?」
「事件の謎が解けるまであと少しだと? タイムマシンによる犯行だなどと適当な推理を披露しておいて、虚勢を張るのもいい加減にしろ」
「くっ」
痛いところを突かれ、遊間は何も言い返すことが出来ない。
「おい、お前たち。こいつらを外へつまみ出せ」
勝ち誇った顔をしながら、浅瀬は部下たちに命じる。
遊間は抵抗を試みるも、刑事四人に取り囲まれ、為す術なく部屋の外へと連れ出されてしまう。
魔門、三上、咲良の三人も、遊間に続いて無抵抗のまま刑事たちに付き従う。
遊間たちが部屋の出口に差し掛かったところで、浅瀬が再び口を開いた。
「もしもだ。仮に貴様らの他に情報漏洩の犯人がいて、その証拠を持ってくることが出来たなら、その時はまた貴様をコンサルタント探偵として再契約してやる。まぁ、そのようなことはあり得ないと思うがな」
浅瀬は遊間たちが廊下の端まで連れていかれるのを確認すると、すっきりとした顔で部屋の扉を勢いよく閉めた。