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日暮里美

 目白警察署、二階、取調室(とりしらべしつ)――とその隣室(りんしつ)

 取調室はマジックミラー越しに隣の部屋から覗けるような(つく)りになっており、浅瀬や遊間たちはそこから取り調べの様子を観察していた。

「ええと、まずは身元の確認からさせてください。

 お名前は日暮(ひぐらし)里美(さとみ)さん、四十二歳、独身。職業は家政婦、で間違いありませんね?」

 取り調べ室の刑事が尋ねると、その対面に座っていた細身で長身の女性――日暮里美は静かに頷いた。

 いわゆる薄幸(はっこう)美人(びじん)と呼ばれるような、色白で整った顔立ちをした清楚な身なりの女性だ。

 だが、日ごろの苦労が顔に表れているのか、その恵まれた容姿とは裏腹に、頬はこけ、目は落ちくぼんでおり、白髪交じりの黒髪も相まって、同年代の他の女性よりも若干老けて見えた。

「しかし、この部屋は狭苦しいな。何とかならないのか」

 遊間が小さな声で不満を漏らす。

「それはきみたちが付いてきたからではないか!」

 浅瀬が小声で囁き返す。

 取調室にいるのは尋問をおこなう中年の男性刑事と調書を書く女性刑事、そして重要参考人である日暮の三名のみ。

 それに対し、隣室には浅瀬とその部下四名に加えて、遊間、魔門、三上、咲良、原木の五名が加わり、室内の定員である六名を優に超えていた。

 遊間と浅瀬がそうこうしている間にも、取り調べは進んでいく。

「上野さんの下で働き始めてから、かれこれ二〇年近く……と。今日も午前中から上野さんのご自宅でお仕事されていたんですね?」

「はい……」

 事務的な確認作業を一通り終え、取り調べはようやく事件当日の話へと移る。

「倒れている上野さんを発見されて、救急へ通報されたのが午後三時頃とのことですが、その前はどこで何をされていたんですか?」

「その前は、お夕飯の買い出しに行っておりました」

「それは大体何時頃(いつごろ)のお話ですか?」

「二時から二時五〇分くらいだったと思います」

 取り調べは淡々と進んでいく。

「具体的な行き先は?」

「目白駅前のスーパーで……」

「その時の領収書はお持ちですか?」

 刑事が尋ねると、日暮は財布の中から一枚の紙切れを取り出した。

「確かに、レシートに印字されている購入時刻は本日、九月一一日の午後二時四三分になっていますね。

 申し訳ありませんが、このレシートは証拠品として、いったんこちらで預からせていただきます」

 刑事はそう言うと、調書を書いていたもう一人の刑事にレシートを手渡した。

「買い物されてからは、そのまま寄り道せずにご自宅へ?」

「ええ、そのまま真っ直ぐ帰宅いたしました」

「帰宅されたのは何時(なんじ)ごろですか?」

「三時頃だったと思います」

「なるほど。そして帰宅後、上野さんが頭から血を流して倒れていたのを発見して、救急に通報された、と」

「はい。お()(どき)でしたので、紅茶をお()れしようと奥様の寝室にお声をかけたのですが返事がなく、不審に思って扉を開けたところ、奥様が倒れているのを発見しまして……」

 日暮はそこまで言うと、肩を震わせながら顔を伏せた。

「……分かりました。念のため、買い物へ行く前は何をしていたか教えていただけますか?」

 刑事は少し間をおいてから尋ねた。

「買い物へ行く前……ですか? いつも通り、朝から掃除や洗濯をしておりました」

 日暮はかすれた声で答えた。

「朝から、というのは何時(いつ)からですか?」

「九時からです」

「それを証明できる人はいますか?」

 刑事がそう尋ねると、日暮は少し言葉を詰まらせた。

「……いえ、おりません」

「そうですか」

 カリカリと調書を書く音が室内に響く。

 刑事が次の質問をしようと口を開いたその瞬間、突如、取調室の隣室――即ち、遊間たちが居る部屋の扉が勢いよく開いた。

「浅瀬課長、お取込み中失礼いたします」

 扉を開いた警察官は浅瀬のもとまで駆け寄ると、彼の耳元に口を寄せて、何事かを囁いた。

 それを聞いた浅瀬の顔が、みるみる青白くなっていく。

 浅瀬は傍らにいた刑事に何かを言い残すと、直ちにその場を離れた。

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