見つからない証拠品
「だぁあああ、なーにもありゃあしねーじゃねぇか!」
遊間たちと共に目黒の寝室を捜索していた天目が突然、上体を大きく反らして怒鳴り声を上げた。
「どうしたんですか?!」
その叫び声を聞きつけて、別室の捜索に当たっていた他の警察官たちが、遊間たちのところへ集まってくる。
「いや、何でもない。引き続き、割り当てられた部屋の捜索に当たってくれ」
三上が彼らを元の持ち場に戻らせようとすると、天目がそれを遮った。
「いや、何でもなくはないだろ」
天目は眼光鋭く遊間を睨みつけると、徐に口を開いた。
「遊間ぁ。お前、今回の事件、何か見落としたな?」
遊間は声を震わせながら答える。
「この僕が、推理を間違えただと?」
「ああ、その通りだ」
天目が頷く。
遊間は首を横に振る。
「そんな……はずはない。いつだって、僕の推理は完璧だ。
今回だって、僕の頭脳に記憶されている、ありとあらゆる怪異の可能性を模索した上で導き出した結論だ。その推理が間違っているだなんて……そんなこと、あり得ない」
遊間はそう言いながらも、高輪の自宅で覚えた一抹の違和感を思い出す。
遊間の額から、じわりと冷や汗が滲み出る。
「それだ。その知識だけを頼りにした偏った推理。
確かに、お前の怪異に対する知識はすごい。だが、探偵に必要な素養は知識だけじゃあない。いくら知識が豊富でも、現実を見ようとしなければ、正しい答えに辿り着けるはずがない」
「なっ……」
たじろぐ遊間に、天目はさらに追い打ちをかける。
「お前は怪異対策の専門家としては一流かもしれない。それは、一流の魔道具屋である俺も認めよう。
だが、探偵としてのお前は、はっきり言って三流以下だ。その事実を認めない限り、今のお前では決してあの人に追いつくことはできない」
その言葉に、遊間はピクリとこめかみをひくつかせる。
「き、貴様こそ、そんな言いがかりをつけて、魔道具を見つけられない自らの無能をごまかそうとしているのではないか?」
遊間はなんとか言い返す。
しかし、天目は大きくため息を吐いて、肩を竦める。
「また、お得意の責任転嫁か? 自らの誤りを認められず、それを改めようともしない。そんなんだから、お前はあの時、万由姉を救うことが出来なかったんだ!」
瞬間、天目の身体が勢いよく宙を舞った。
遅れて、鈍い殴打音が室内に響き渡る。
「おい! やめろ、遊間! いったん冷静になれ!」
天目に次の一撃を食らわせようとする遊間を、三上が慌てて制止する。
羽交い締めにされた遊間は、息を荒げながら、赤く血走った目で天目を睨みつける。
「すまねぇ……今のは言い過ぎた」
唇の端から流れ落ちる血を袖で拭いながら、天目は謝罪を口にする。
だが……。
「少し、頭を冷やしてくる」
遊間はそれに答えることなく、一人、部屋を飛び出していった。