プロローグ
「推理とは、点と点を繋いでいくことだ」
愚かな探偵は語る。
「そうだな……喩えるなら、星と星を結んで星座を創り出すのと同じだ。単体では意味を為さない星も、周りの星々と繋ぎ合わせていくと、やがて物語を帯びた一つの図形を浮かび上がらせる。重要なのは、星そのものの輝きに目を向けることではなく、それらの関係性に目を向けることなんだ」
その喩えの可笑しさに、私は思わず失笑してしまう。
だってそうでしょう? 本来、星の並びそのものには、何の意味もない。そう見えた――ただそれだけの理由で、人々が勝手に意味や物語を付与してきたに過ぎないのだから。
そのようなことを考えながら、愛想笑いを続けていると、探偵は怪訝な表情を浮かべる。
「何か、可笑しなことを言ったかな?」
「いえ」
私は適当に返事をして取り繕う。そして、彼の耳には届かぬよう小さくため息を吐いた。
ああ、なぜ人は何事にも意味を見出さずにはいられないのだろうか。
なぜ、無意味な記号の羅列にさえ、意味を見出そうと足掻くのか。
まるで、そうでもしなければ……酸素のない宇宙では、生きていけないとでも言わんばかりに。
探偵は頭上に投影された紛い物の星々を指さしながら、饒舌に語り続けている。私の表情の変化になど、気付く気配もない。いや、ありのままを見ようとしない彼には気付けるはずもない。
私には理解できなかった。
なぜ、人々は星に願いをかけるのか。
なぜ、人々は自らの人生に意味を問い続けるのか。
なぜなら、知っていたからだ。
そもそも、この世界そのものに何の意味などないことを。
こんな偽物の世界など、単なる神の慰み物に過ぎないことを。
だがもし、その「無意味」であることすらも覆して、何か新しい「意味」を創り出せるのだとしたら。あの時、必死に手を差し伸べてくれた彼の言っていた通り、見出すのではなく、創り出すことができるのだとしたら……。
その時、私はこの絶望から解放されるのだろうか?
安里 万由 著「悪魔の星間」より




