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リバース・ワールド  作者: 萩野栄心
第2章 小学校編 〜低学年〜

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第23話 入学式 前編

 「校ちょう先生。」かつしは姿を見かけて、駐車場を走り出した。


 「黒田君が元気そうでなによりです。」校長先生が顔を上げても、背が丸まった影響で、余計に小柄に見えた。


 「げんきだよ?どうして、ここだけボロボロなの?」写真で見た校門は新しく綺麗だったのに、こっちの裏門は建物に汚れや色落ちした部分が露わになっていた。


 「こら、かっちゃん。なんてことを言うの。申し訳ございません、校長先生。」秋穂お母さんが頭を下げていた。


 「いえ、素晴らしい着眼点です。よく気がつきました。鈴鳴小学校は長く続いてきたために建物が古くなっています。様々な支援の元、現在建て替え中ですので、イメージされたのはそちらの方でしょう。」


 「今後が楽しみですね。」


 「はい。かつし君が在学中に全て建て替わることでしょう。表は既に賑やかですので、早いところ中に入りましょう。こちらです。」校長先生の案内で、かつしは上履きに、秋穂お母さんはスリッパに履き替えた。


 「ほら、かっちゃん。失礼なことを言ったんだから謝りなさい。悪いことをしたら、ごめんなさいでしょう?」ついついポロッと出ちゃった。ちょっとぐらい…。やっぱり、ママはゆるしてくれないよね?


 「ごめんなさい、校ちょう先生。」ぼくが いやなことをしちゃったのかな?


 「いいんです、いいんです。子供は元気が一番。のびのびしている方がいいんです。さっ、早く顔を上げてください。こんなところを見られたら、今後のかつし君が困りますから。」かつしが顔を上げると、校長先生が手をワタワタさせて笑ってしまった。校ちょう先生も、ぼくと いっしょみたい。子どもみたいだ。




 「伸利子さん、かっちゃんをお願い。あなただけが頼りなの。周りから守ってあげて。」そとは大さわぎじゃなかったの?ここには、だれもいないよ?


 「もちろんです。お任せください。」伸利子さんの身体は鍛え抜かれていて、ソーセージを割るように、かつしも捻り潰せそうだった。


 秋穂お母さんとは別れて、入学生が待つ待機列に、伸利子さんと待っていた。のりこさんはすごいよ?ちらっと見ただけなのに、バレたんだ。小さくあたまを下げたんだよ?どうして、わかったんだろうね?


 「私は陰ながら見守っています。入学式頑張ってください、かつし君。では。」伸利子さんの姿はどこにもなかった。のりこさんが いうんだから だいじょうぶだよね。


 「もうだいじょうぶ。」のりこさんもいるもん。もう1人じゃないよ。かつしは目の前の扉を見つめた。小学校ではなにがあるのかな?このトビラの先にあるんだよね?これから、はじまるんだ。


 「あれ?ぼくここで あってるの?」かつしが周囲を見回すと、かつしを中心にぽっかりと空間が広がっていた。


 「いいの?」かつしがキョロキョロ見回しても、目を逸らされてはこっそり盗み見するばかりで、かつしの焦りはさらに加速した。


 「1年1組。きっちり並び直そう。さぁさぁ、間隔を空けずに。ああ、君がそうなのか。よろしく、かつし君。君の担任だよ。」


 「う、うん。」背筋がピンと伸びたおばあちゃんだった。かつしにはちゃんなんて、可愛らしい存在には思えなかったが。担任の先生は力強い声で、次々と入学生を整え始めた。


 「ふぅ、はじめてだ。あんなに まっすぐ見られたの。」かつしは一息ついた。初対面で目を逸らさずに、堂々と見てきた人は初めてだった。ぼくのほうが きんちょうしちゃったよ。


 「もうすぐ入場だ。前の子の後について、遅れないようにね。」担任の先生が前で話をすると、大きな扉が開いた。激しく明滅する光に出迎えられて、かつしは思わず目を閉じた。


 「おおっ。」同じどよめき声が空間を支配していた。一瞬の間を置くと、爆発したかのような声援が聞こえた。立ち上がって拍手をする者や、押して椅子が倒れた様子が見えた。ガタガタと音がした後には、怒号まで聞こえた。


 レーザーを放つぐらいに顔という顔がこちらを打ち抜き、秋穂お母さんを探す余裕もなく、かつしは先生の後に続くので精一杯になった。


 「続きまして、ご来賓の方々を代表いたしまして、市議会議員の三浦勝代様に一言ご挨拶いただきたいと思います。」おしりが いたいよ。まだかな?今度は壇上で、立派な服を着た女性がマイクを握っていた。こっちも、すごそうな気がする。


 「新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。鈴鳴小学校も創立200年。長きにわたり、これほど大きく、賑わいを見せるようになりました。鈴鳴小学校の卒業生として、お祝いを申し上げることができ、大変誇らしく思います。」どこかで見たことあった?はじめてじゃないような?それに耳もキンキンする。うぅ。


 「入学される皆さんは、この小学校で新しい友達と笑い、学び、大人へと大きく成長していきます。心躍る毎日が。味わったことのない経験が。新たな出会いが。待っていることでしょう。」そうなの?そうだよね?はじめてが いっぱい?たのしみだな〜。なにがあるのかな?ぼくも大人になれるんだ。


 「鈴鳴小学校は光栄にも、全国初の男子生徒を迎えることになりました。男性減少問題は依然として、世界を危機に瀕しています。本日が歴史の転換点です。小さな戦士が立ち上がりました。未来を変える為に歩み寄ろうとしています。同じ教室を共にすることで。我々はこの立派な意志を守り、育みましょう。この出会いはより良い発展に繋がります。皆さんの輝かしい未来をお祈り申し上げ、私からのお祝いの言葉とさせていただきます。本日はおめでとうございました。」この人も いっしょのことを おもってたんだ。ぼくだけじゃなくて、みんなが なかよくできるって。司会の声を耳に挟みながら、かつしはこれからの小学校生活を連想していた。



秋穂(あきほ)伸利子(のりこ)勝代(かよ)

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