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リバース・ワールド  作者: 萩野栄心
第1章 幼稚園編
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第19話 クラウドタワー 開花編

 「だいじょうぶですか?ごめいわくでしたら、すぐに たちさります。」


 「え?」かつしは目を瞬いた。先ほどとは、まるで別人。あれほど堂々としていたのに、ずいぶん遠くから伏し目がちで、今にも消えそうな声をしていた。


 涙の跡が残るかつしと、腰を下げたままの女の子は妙な距離感のまま見つめ合った。


 「おちつきましたか?」女の子の声はまだ小さいままだった。


 「あ、うん。だいじょうぶ。たすけてくれてありがとう。でも、なんで とおいの?どうして、イスにすわらないの?」


 「いやでしょう?むかえのかたが いらっしゃるまでです。なので、ごあんしんを。」むずかしくて わかんないよ。とうとう女の子はお辞儀までしてしまった。そうだ。おそとの おんなのこは わるものって、いってた。


 「ふふ。」かつしは声に出して笑ってしまった。だって、おかしいよ。ぼくより すごく つよいのに。それなのに、ぼくのほうが すごいみたいにするなんて。今度はお腹を抱えて笑い出した。


 「なにか しつれいなことを おこないましたか?」女の子の声は少し力強くなり、一歩近づいた。


 「のりこさんでも、そんなことしないよ?ぼく、はじめてだよ。」かつしの笑いはまだ止まりそうになかった。


 「とりあえず げんきそうで、よかったです。」女の子はしばらくすると咳払いをした。


 「そのはなしかた やめてよ?ぼくも おかしくなっちゃう。わらいが とまらないよ。」かつしはなんとか身体を起こすと、きっちりと座り直した。


 「どういうことですか?さすがにそれは…。わかりました。」女の子はしばらく唸り続けると目を閉じた。


 「こんなに とおいと はなしづらいよ。イスにすわったら?」どうして、こんなにチグハグなのかな?どうして、こんなことをするのかな?


 「ええ。あとから おこらないでね。」女の子はそろりと近づいては止まり、またそろりと近づいては止まった。やがて、女の子は椅子の端にチョコンと座り、2人の距離は椅子の間隔までに縮んだ。


 「じこしょうかいが まだでした。わたしはきひろ。よろしくね。」きひろちゃんは微笑みを浮かべた。また かわった?さっきと おなじだけど、ちょっと ちがうような。


 「ぼく、かつし。たすけてくれて ありがとう。」きひろちゃんは反応がなく、ボーッとしているようだった。


 「どうしたの?」かつしは椅子を一歩詰めて覗いた。


 「よろこんでもらえて よかったわ。それにしても、どうして、ひとりでいるの?」きひろちゃんは急に動き出した。


 「ママがいなくなったんだよ。おそとを みてただけなのに。でも、ひとりは こわかった。みんな わるものに みえるんだ。」かつしはブルっと震えた。


 「それはそうです。おとこのこが きていいばしょではありません。それと、あなたが はぐれたのでは?まったく あきれました。こんなに むけいかいな かたは はじめてです。みなさんに いわれませんでした?」あ、きひろちゃんが わらったよ。


 「みんな しっかりしてるって おもってるよ?でも、ぼくね?どうしても、ここが よかったんだ。」


 「そんなに、ここがすきなの?」きひろちゃんは椅子を一歩詰めて近づいた。


 「もちろん。こんなに おっきいんだね?ママったら、なかなか つれてきてくれなかったんだよ?」


 「これたのが すごいと おもうわ?わたしも すきよ。がんばろうって おもえるの。」


 「よくくるの?」かつしは足をぶらぶらさせた。


 「たまによ?あいまにね。きょうは…。」


 「ぼくと おなじなのに、すごいね。」ぼくは ようちえんと、おうちしか しらないよ?


 「しきたりだからね。でも、こんなに ながく おとこのこと はなしたのは はじめてよ。」きひろちゃんはサッと顔を逸らすと、ポツポツと話し出した。


 「あるの?どんな おとこのこだったの?」かつしは身体の向きを変えた。


 「えぇ、あるわ。こんなに ふつうに はなせたのは はじめてよ。」きひろちゃんはプイッと目を逸らしてしまった。


 「ふつう?なんのこと?みんなはどうだったの?」かつしの頭の中で疑問符が踊った。


 「おんなのこを てきししているのよ。なにもしないのに、めいれいだけは いつも えらそうにするの。おとなしく したがうのがとうぜん。おとこのこのほうが すぐれてる。きっと、みくだしているんだわ。」きひろちゃんはつっかえ棒を破壊してしまったように、一気に話し出した。


 「やっぱりそうなんだ。そうだよね。」いやな きもちになるよね。ぼくも…。公園の出来事が、かつしの胸にチクリと刺さった。


 「あっ。かつしくんを せめているわけじゃないの。ごめんなさい。なんてことを。」


 「ぼくもね?はじめてあった おんなのこに、ひどいことをしちゃったんだね。いっしょに たのしく あそんだのに、さいごに ひどいことを いったんだ。やっぱり いやなきもちになるよね。」空いた時間と目を逸らした分だけ重石となり、かつしにのしかかってきた。やっぱり、ぼくが わるかったんだ。だって、おなじ にんげんなんだもんね。


 「やっぱり、あなた かわってる。ふつうはきづきもしないわ。むしろ、あそんであげた、よろこぶべきだって。」


 「そんなひどいの、ふつうじゃないよ。」かつしは大きな声でハッキリと伝えた。


 「ちがうのだから しかたないわ。おとこのこは きちょうなのよ?えらばれた にんげんだから ゆるされるの。」きひろちゃんとバッチリ目が合い、お互い逸さなかった。


 「でも、おなじ にんげんだよ?うれしいことも、いやなことも かんじるよ?それに、なかよくだってなれるよ?」ぼくは、みんな すきだよ?なのに、うえとか、したとか。バラバラなんていやだ。やっぱりおかしいよ。


 「そうだったらいいね。わたしも そのほうが すてきだと おもうわ。そんな かんがえかたのひとは はじめてよ。まして、おとこのこの かんがえかたよ?あーあ。どこかに、そんな せかいがあればいいのにね。」きひろちゃんは空を眺めながら話した。


 かつしの中で、ピースがぴたりとハマった。遠くの方で音が聞こえたと思った時には、かつしも徐々に現実から遠ざかっていった。

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