表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リバース・ワールド  作者: 萩野栄心
第1章 幼稚園編
15/79

第15話 衝突

 「もうすぐ、いちばんうえだ。はやく ならないかな〜。」手洗い場の隣で、かずき君が蛇口を捻る音が聞こえてきた。


 「ぼくは、はやく しょうがっこうに いきたいよ。みんなで あおうって やくそくしたんだ。」かつしは石鹸で手を洗っていた。


 「けいすけはパーティーにも いってたな。どんなところ?」


 「ともだちが、さらに いっぱいなんだ。とくに わたるくんが すごかったよ。」遠くから、けいすけ君の声が聞こえた。


 「そんなとこなんだ。すごいな〜。もしかして、しょうがっこうは べつ?」


 「そうかもしれない。かなしいね。」かつしは濡れた手をタオルで拭き始めた。


 「おおきくなっても、またあそぼうぜ。」


 「もちろん。」かずき君とけいすけ君は手を取り合っていた。


 「かつしは、みんなと おなじ しょうがっこうに いくよな?かつし?」みまちがえた。4つの目が怪物の目に見えてしまった。ただ、かずき君とけいすけ君がこっちを見ていただけだったのに。


 「う、うん。そうだよ?」かつしはお辞儀するぐらいに頷き、ハイタッチに加わった。


 「ほんとに きいてたのか?」


 「きょうは、ずっとこんなかんじだね。」かつしは笑って否定することしかできなかった。



 「もうすぐ年長さんです。みんなはすぐに、小学生になるでしょう。楽しくて仕方ないですよね?」達秀先生の周りでは、手や声を上げる子、ジタバタする子、大人しい子。それぞれが思い思いに過ごしていた。


 「ただ1つ。気をつけて欲しいことがあります。小学生になると、女の子と会うこともあります。」達秀先生は口を噤んだ。今度は叫ぶ子、立ち上がる子。それぞれが勝手に動き出してしまった。


 「仕方ないんだ、ごめんね。でも、近くにはお友達がいる。何をしてくるかわからなくても怖がることはないよ。そのためにも、これから勉強をするからね。」達秀先生の言葉の後には掛け声が続いた。かつしの周りでも、口々に声を上げている。


 「そんなに ちがうのかな?」かつしは盛り上がる光景を眺めていると、出会った人々を思い出した。


 「「なにが?」」2人の声が同時に聞こえた。


 「おとこのこと おんなのこ。そんなに ちがうのかな?」かつしはもう一度口にした。


 「ちがうだろ。ちからも つよい。」かずき君が押し寄せてきた。


 「あぶないよ。いつ あばれるか わからない。」けいすけ君には、肩に手を置かれた。


 「そ、そうかな?」かつしは1歩2歩と後ろに下がった。


 「「そうに きまってる。」」



 「どれがホントなのかな?」かつしはブランコに座って漕いでいた。待ちに待った運動の時間がやってきていた。

 ママも、のりこさんも、うまれてくるいもうとも、ぼくは みんな だいすき。これはホントだよ?やっぱり、きらいになんてなれないよ。かつしは空中を足で蹴った。


 でも、おんなのこは あぶないから ちかづいたらダメって、せんせいも ともだちも いってるんだ。でも、ぼくは いやだなって おもうんだ。ママたちが わるものみたいで いやだよ。いままで まったく おもわなかったのに、どうしたんだろう?かつしは空中で足を伸ばした。


 もしかしたら、おそとは あぶなくないかもしれないよ?だいじょうぶかもしれない。でもこれだけは、みんな いっしょなんだ。それじゃあ、こうえんのこも あぶなかったのかな?そもそも、なんであんなことになったんだっけ?かつしが足を伸ばし続けると、ブランコは減速した。


 そう、たのしかった。あそこまでは。ふんすいの とこまでは。そうだ。ぼくが きづいたんだ。おんなのこだって。だから、あんなことになったんだ。そうだったんだ。あれ?それじゃあ…。でも、あっちが…。かつしのブランコは地上に戻り、地面に両足をつけた。


 「かつし君、聞こえてますか?ブランコの交代をお願いしている子に気付いていますか?」達秀先生が目の前、その後ろには顔をグシャグシャにした子がいた。


 「きこえてるよっ。」かつしはブランコから飛び降りて走り出した。少し汗をかいてしまった。


 「かつし君、大丈夫ですか?困ったことでもありましたか?」


 「だ、だいじょうぶ。」かつしは両手を振って、なんとか言葉を絞り出した。


 「そう?何かあったら先生に言うんだよ?」達秀先生は背を向けて戻っていった。



 かつしの手はなかなか動かなかった。自由に色を選んで、線を描けば良いはずなのに。画用紙は真っ白なままだった。


 「どんな えを かいてるの?」かつしが伸びをしていると、2人の姿が目に入った。


 「なにしてるの?」2人は身を寄せ合って、言葉が理解できる程の距離ではなかった。


 「みろよ、かつし。かんせいだ。」


 「ぼくと、かずきで つくったんだ。」かずき君とけいすけ君が画用紙の両端を持って、絵を披露した。かつしは目を見張った。


 「ぼくがアドバイスをしたり、まわりの えも かいたんだよ。」一方には花が咲き乱れ、もう一方には枯れた木が並んでいる。


 「でっかいのは おれが とくいだからな。ちいさいのは けいすけが とくいだ。」一番に目を引いたのは、中央の2人の人間だった。一方は目を瞑って祈り、もう一方は背後の霊が恐ろしい顔で、もう1人を食べようとしていた。


 「ちがうよ!」かつしは突撃して、絵を真っ二つに破きさった。


 「あーっ。なにすんだ!」


 「せっかく じょうずに できたのに!」


 保育室には3人の泣き声が響き渡り、大騒ぎの事態となった。幸い降園の時間が迫っていたため、落ち着くと帰宅になった。


 「最近ママが厳しすぎたみたい。辛い思いをさせてごめんね、かっちゃん。」秋穂お母さんに頭を撫でられたが、かつしにはよくわからなかった。


 「どうしたのママ?」


 「大変なことばかりだったのに、ゆっくりできなくて、困らせたみたいね。」


 「ぼくは、だいじょうぶだよ。」かつしは繋いだ手を揺すった。


 「お休みが必要よ。ママも忙しかったし、気をつけないとね。」秋穂お母さんは続けた。


 「ぼく、げんきだよ。へいきだよ?」かつしも続けた。ちがうよ、ママ。


 「気付いていないだけよ。さぁ、お家に帰りましょう。今日は元気が出るご飯を作りましょう。」かつし達は車に乗り込んだ。



達秀(たつひで)秋穂(あきほ)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ