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第1話 「善き意志、あるいは火刑台にて」

この作品は「異世界×哲学」をテーマにした物語です。

派手なバトルや冒険の要素は、おそらく少なめになると思います。地味な話かもしれませんが、お付き合いいただけたら嬉しいです。

 火の匂いがする。

 湿った木と干し草が焦げる匂い。重く、甘く、どこか懐かしい。

 いや、これは懐かしさではない。


 私は、火刑台の上で目を覚ました。


 両手両足は粗末な縄で縛られていた。足元には薪が積まれ、回りには人間たちがいた。

 男も女も、老人も子どもも。その目は私を見ていない。いや、私という存在を認識していない。

 彼らが見ているのは、「燃やされるべきもの」だった。


 「これより異端者ソルを、神の名のもとに裁く」


 壇上に立った神官が高らかに宣言した。


 ソル。それがこの身体の名前らしい。

 しかし、私は創真だ。

 他人の身体に入りながら、それでも私は“私”として思考している。


 神官の声が遠くで鳴っている。


「この男は魔族と交わり、禁じられた言葉を口にし、神の秩序を乱した。よって火により、浄化されねばならぬ!」


 群衆が声を上げた。怒号、石、唾。私の皮膚はそれらを感じていたが、心はどこか別の場所にいた。

 この状況に恐怖がないわけではない。だが、それ以上に疑問があった。

 私はゆっくりと顔を上げて、神官を見た。


「私は……何をした?」


 神官は眉をひそめた。


「とぼける気か。貴様は神の言葉を否定し、“すべての種に等しき魂がある”と口走った」


「それが罪だというのなら、ひとつ問わせてほしい。

  魂は、誰が与える?」


 ざわめきが広がる。神官の顔がわずかに引きつった。


「それを問う資格があるとでも? 神が与えた秩序に、お前のような者が疑問を抱くなど……」


「資格の問題ではない。私は、自分が信じることと、考えることの差を問いたいだけだ」


 私は火刑台の上で、呼吸を整えるように言葉を紡いだ。


 「たとえば神が、人間だけに魂を与えたとする。それが事実だとして、では、魔族が苦しみ、愛し、哀しむことには、何の意味もないのか?

 彼らが命を奪われるとき、声を上げることも、誰かを守ろうとすることも、すべて魂なき動作だというのか?」


 「魔族」 その言葉を発したとき、私は考えるより先に、意味を理解していた。

 この身体に染みついた記憶が、私に教えたのだ。

 ここは、私のいた世界ではない。

 神を信じ、魔族を恐れ、問いを焼き尽くす世界だ。


 神官は何かを言おうとしたが、言葉が出てこなかった。


「信仰は自由だ。だが、“信仰に問われることを恐れる社会”は、信仰ではなく統制だ。

 そして、正義は本来、痛みを癒すためのものだったはずだ」


 私は群衆を見回す。怒号は止まり、火打石を構えていた男が手を止めていた。


「あなた方が信じる神が、もし“善き存在”であるのなら―

 問う者を、焼かせるだろうか?」


 沈黙。


 火の音だけが聞こえる。

 私は静かに続けた。


 「この火は、誰のために燃える?

  それは神の正義か? あなたの恐れか?

  それとも、“異なる者”を理解しようとしなかったあなた自身の―」

 

 そこで、風が鳴った。

 空が裂け、火刑台が崩れる。黒銀の影が舞い降り、私の前に立つ。


 群衆が悲鳴を上げる中、彼女は静かに言った。

「立てるか」


 私は彼女を見た。

 彼女の目は、他の誰とも違った。

 問うことを拒まず、むしろ問いそのものに応えようとする者の目だった。

 ソルという名を持っていたこの体に残る記憶が私に教える。

 彼女は、魔族だ。

読んでいただきありがとうございます。

語りが多く、展開がやや少なめになってしまいました。(そもそも文量が少ないですが……)

きっとこれからもそうなるかと思います。でも、なるべく面白い話を考えていくのでよろしくお願いします。

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