やるしかないのだから。
覆せない横暴な態度とそれでも交渉が成功できると勘違いしていた、
使者がこれから母船に帰ってどういった事を言って結果を伝えるのか。
それを私が気にする必要はないのだ。
無理な命令の連鎖と聞き入れない上司との果てに、
あの使者が派遣されて来た訳では無い事位私は解っている。
だからかもしれないけれどあっさりと交渉を打ち切る事が出来た。
さて決定は覆さないから準備は本格的に始めなくてわね。
使者を返してからの私達の動きは迅速だった。
と言うより迅速に動かなければ命が無い。
戦う以外の選択肢を周囲の皆に見せる事はもう出来ないし。
私にとって決断の時はもう過ぎ去ったのだ。
お見送りを任せれば本格的に都市ギネヴィアは要塞都市として、
稼働してよいと言う「許可」を私はしなくてはいけない。
命令を一本化して意思の疎通をしっかりと行う事の確認も当然する。
そうやって私が意気込んだとしても、
動いて戦う事の全般はグラファイスとアルフィンの指揮下で行う事は、
既に決まっているのだけれど。
決定を下した後は後ろに指揮を見てその様子を見ている事しか許されない。
あくまでも私が出来るのは方針の決定なのだから。
疎い軍事関係にしゃしゃり出て現場を混乱させる訳にはいかないのだ。
交渉前から使者達の横暴と戦線布告の様な事しか聞かされていなかった以上、
既に領都への連絡をする前から戦いへの準備は既にその時から始めてはいた。
臨時列車とファルスティンの内湾にはありえな「外国」の上陸船が見えた時点で、
さとい領民の一部は噂が始まっている。
そして港湾部の一部で使者達のもてなしの様子は当然領民からは、
丸見えなのだから領民達が気にしない訳がない。
めざとい報道関係の様な仕事をする人物がその情報を都市内に伝達するし、
報道規制のような事もしないから一種の緊張感の様な物が町全体を見込む。
そうなれば求められるのは都市の代表者である人物の声なのだ。
戦うのか…
それとも降伏するのか…
領民達はその明確な決断を聞くまでとてもやきもきしていただろう。
その辺りの情報も代表者ギネヴィアの名を使って直ちに広められる事になった。
決断する権限は私にあったのだからファルスティンと私の名前で、
伝えるべきかとも考えたのだ。
けれど
「いいえ。
ここでは「バルダー」の名の方が強い。
この地を守る為に戦うと「バルダー」が決断したと伝える方が良いでしょう。
ファルスティンを守ると言うより言葉の意味が重く出来ます」
「ギネヴィア、それでもいい?」
「ええ問題ないわ」
交渉が決裂し戦う事になった理由は「ギネヴィア・バルダー」の名を使って、
直ちに都市内に伝えられたのだった。
正式な伝達後も都市ギネヴィア内の様子は一段と活気にあふれているかのような、
そんな形となって、そんなに動揺して治安が悪化するような事にもなっていない。
それは来るべき時が来たとだけ領民達は捉えているからかもしれない。
けれどそれ以上に私は「貴族」と言う物の重さを知る事になった。
存在と「バルダー」の名を持つ者の言葉だけで領民達は信じられるのだ。
叔父様が築き上げた大きな信頼は今現在の都市ギネヴィアが胴揺する事を、
最小限に抑えている。
そしてゼファードの娘であるギネヴィアに対する領民の期待は当然大きい。
ここに来てちぐはぐな印象を受ける事も多いギネヴィアだけれどそれ以上に、
こう言った緊張状態では自身の役割を果たしてくれるから私としても心強い。
―バルダーは逃げない―
領民が…
都市ギネヴィアに住まう領民が聞きたかった言葉はたぶんそれだったのだろう。
ギネヴィア・バルダーの為なら命をはれる人は多そうだった。
時間がない中で準備は続けられる。
都市ギネヴィアは初めて「海外」から侵略を受けたのだ。
それが無作法な海賊で無かった事を喜ぶべきなのかそれとも、
明確な頭の足りない侵略者だった事を嘆くべきなのかは解らない。
けれど使者とそて「あの振る舞い」をする事をゆるしたのだ。
よほど自身がおありなのだろうとは思う。
どう考えても「戦い方」が私達…と言うか叔父様が用意している物よりも、
遅れているようにしか見えないけれどそれでも「降伏勧告」しか出来ない、
妥協点はないとデルフィナス王国は言い続けたのだ。
此方に意見を求めず最後まで一方的に話したのなら仕方がないでしょう。
あの自信のが本物か偽物かを考えるのは後で良い。
あとはこの都市ギネヴィアに用意された「兵器」が相手を凌駕している事を、
願うだけしか私がする事はない。
何せこの都市基礎を築いた叔父様は戦える様に作ったのだ。
つまりそう言う事なのでしょうよ。
「外敵」となる物がやってくるのは当然海の方から、
防衛の事すら考えていたこの都市は既に半島の先端に、
隠し砦と隠し砲台の様な物も当然の様にある。
目的は灯台を設置する為のスペースという理由で用意されていた、
土台の修理には、当然偽装砦のオンパレードなのだ。
その砦までは無駄に立派に作られたトンネルで当然の様にバルダー家の邸宅と、
繋げられている。
都市決戦ともなれば鉄馬が集まるターミナル駅付近の建物が一般人の避難と、
民間支援基地としての役割を持ち、攻撃に対する対応はバルダー家にある、
いわゆる会議室の様な場所で戦闘指揮を取る形となるみたいだった。
それは非常事態マニュアルの様な物が既にファルスティン領には、
制定されていたみたいで…
その都市の最高責任者か領主ライセラス・ファルスティンもしくは、
その妻ターシャ・ファルスティンから委任されればその人が主体となって、
戦闘終了まで判断を下す事になる。
オースヴァイン王国との戦闘は避けられない。
そう考えていたからその指揮系統は柔軟かつ繊細に変更できるように、
色々と取り決めがアネスお父様の代から決められ始めていたって事なのだろう。
先に都市ギネヴィアが戦闘する事になるなんて思わなかったのだろうけど。
領民の無用な外出の制限と深夜にも関わらず戦闘に係れない人を、
都市エルゼリアの仮設避難所として作られた建物に受け入れられる限り、
受け入れる事も事前に考えていたのだけれど…
あまり退避する事を望む領民もいなかった。
各ご家庭の殺る気になってしまっている好戦的な領民達も都市の防衛機構に、
取り込まれているし皆思いは一緒なのだ。
新しく出来た故郷を守る。
それが共通の認識であり共通の想いなのだ。
都市ギネヴィアに住まう人のほとんどは私より少し年齢が高い。
そしてお父様世代よりは若い。
それは自分達が作り上げて豊かになってきた世代だからという認識もあるし。
都市ギネヴィアは自分達の都市だって自覚はとても強い。
だから戦うという事に自分達の居場所を守る為に戦えるなら、
いくらだって無茶が出来てしまう。
血を流せてしまう。
愛国心ならぬ愛都市心の様なものだろうか。
率先して都市全体の戦闘準備すら始めてしまっているみたいだった。
開戦まで最短であと2日。
今日の交渉決裂までの間に出来る事は既に始めているし、
少なくとも一方的な戦いとなりズタボロになる事は無いと思いたかった。
交渉決裂となった次の日の朝。
デルフィナス王国の開戦宣言まであと一日となり、
こちらが準備出来る事も少なくなってしまっていた。
格納していた高射砲が射撃位置に固定され模擬弾を使った試射と、
弾薬の最終チェック。
同時に沖合に停泊し続けているデルフィナス王国の船舶の監視も当然
続けられているらしかった。
アルフィンとグラファイスの連絡は密となり彼等の間では、
そのやり取りが激しくなっている事だけは理解できる。
都市ギネヴィアの全てを知っているアルフィンが後方の私達がいる、
指令室から全体を指揮し前線の砲撃を行う所でグラファイスがその部隊を、
補助すると言う形らしい。
今日からは対魔法妨害用の機器も稼働させるとアルフィンから報告も受けている。
私とギネヴィアはその様子を一歩離れた所から見続ける。
細々とした都市運営の部分でギネヴィアは意見を求められる事もあるけれど、
こと私の傘下の作業は全て一旦停止させてある。
それは当然服飾関係は全停止だ。
それらに関わる人物の大半は別の部署に配置させる事も考えたのだが、
「戦闘に関係ない私やエルゼリアの針子さんやデザイナーさんは…
落ち着くまで都市エルゼリアに退避していてもらいましょう。
流石にね?」
それは遠回しに提案してきた「ドレス」から逃げるギネヴィアの、
言い訳だったのだが…
思いの外簡単に受け入れられる事になる。
リラーナやリチェルチェが反対しない理由は当然あるのだが…
それは開戦日の朝に知らされる事になるのだった。




