おもてなしをする事などお断りと堂々と宣言する。
大扉が開かれれば案内役を先頭に3人の使者達が入って来たのだった。
入室してくる使者は頭も下げず、私達の方にずかずかと3人で歩いて来る。
けれど、近付くにつれ私とギネヴィアの姿を見て、大いに驚いているのだった。
当然だ。
着せられているドレスは煌びやかに整えられて、その姿とドレスの出来から、
唯の貧乏領主と言ったイメージは絶対にわかない。
肌の露出は当然なく、重たい代わりに豊かさをこれでもかと表現できるこの姿を、
する事でこの交渉と言う名の茶番に威圧的な返答をする事が出来るからだ。
顏の視認性を落とすために薄く重ねた豪華なアクセサリーに縫い付けて、
まるで花嫁が被るヴェールの様に目元までを覆い隠していた。
色々あるけれど、こちらの代表者として振舞う私の顔を、
覚えられる事を当然看過するつもりは無いし結果を伝えるだけなのだ。
顔を出さずとも着ている物とその立ち振る舞いで十分納得させる自信があったのだ。
この数日間でとっても調子に乗られた使者殿達はこの場に呼ばれた理由すら、
解っているみたいな態度ではあったが、私とその後ろにいるギネヴィアの姿を見て、
一瞬だけ動揺するも、直ぐに態度を持ち直したみたいだった。
そう。
そう言った態度を取ると解りきっていたから私はこの部屋に何も用意しなかった。
ただ向こうが話し始めようとするタイミングで声を発するのだ。
主導権は握らせない。
「ようこそおいで下さいました。
この地を統べる一員としてあなた方を歓迎いたします」
そしてそのまま返答をする事にする。
当然挨拶が終われば私と使者の間にはグラファイスが剣を構えたまま、
使者を睨みつけていた。
けれどそんな様子でも使者達は鼻で笑うのだ。
まだ、要求を受け入れるに決まっていると信じて。
「ほう?一体どう言うつもりだ?
属国として「おもてなし」をする準備をしたのではないのか?」
あくまで私を挑発するような立場を崩さない。
この場は交渉の場として用意したとデルフィナス側は当然思っていない。
そしてこの何もない「場」を見て何も思わないのはバカか観察力が無いかの、
どちらかでしかないと思うのだ。
けれどそれでも慌てる素振りを見せないのは、
使者としての立場もあるからかもしれない。
言葉を武器として戦う、使者が事程度で動揺する程度ではいけないのだ。
その両肩には「国益」という重たいものがのしかかっているのだから。
「そうですね。
ある意味「おもてなし」となりましょう。
ですが、「もてなす」のは私達ではなく、あなた方ですね」
それは私の口から言う最後通告の様な言葉となった。
だからこそ使者は次の言葉を少し考え気味に話してくる。
けれど今更使者が何を言っても結果は変わらないのだけれど。
「何を持て成せと?」
私はクスクスと笑いながら演技をする様にゆっくりと返答を口にする。
片手で持っていた大き目の扇子を開いて口元を隠しながら、
口を吊り上げ不敵な声色で笑みを浮かべ小さく笑ったのだ。
そう使者にだけ聞こえる様にクスクスと。
余裕を見せる様にね。
「私達の中で使者殿の要求を検討した結果、
宣戦布告として受け取る事に致しました。
後続の艦隊が着次第開戦といたしましょう。
その旨母船にお戻り次第、お伝えいただければと思います。
使者殿が母船に帰るまでは大人しく帰るのであれば、
お命は保証させて戴きます。
ですが…
大人しくメッセンジャーとなってお帰りになられない場合は、
使者殿の首を持って返答と致します。
どちらが宜しいでしょうか?」
私の返答を聞いた使者は明らかに動揺していた。
それはそうだ。
今まで傍若無人に振舞っていたのだ。
それでも許容されていたのは反抗の意志は無いと言う無言の訴えだとでも、
思っていたのだろう。
けれどそうじゃない。
無力で失い続けるのはもう嫌なのだ。
私達は戦う。
けれどその私の宣言を当然使者は認めない。
「く、下らぬな。
おまえの様な女にその様な事を言われても信じぬわっ
冗談はここまでで良い。
許してやる。
代表者を出して軍門に降ると宣言しろ」
「それはメッセンジャーとしてお帰りになられないと言う意味でしょうか?」
会話の流れは変わらない。
そして場の空気も当然そのまま殺気立ったままなのだ。
つかの間の沈黙の時間が流れたのだ。
使者の目は泳ぎ私の方を見る事が出来ない。
面白いぐらいに動揺していた。
良いように交渉が進んでいたと思っていた最後。
持ち掛けられると思っていた服従を誓う場と思って連れて来られた場所で、
戦争をしましょうと宣言されれば予定も狂うだろう事は手に取る様に解る。
けれど譲歩も何もない。
全て寄こせと言ってきたのだ。
ならこっちの返事は一つなのだ。
何かを差し上げるから許してほしいなんて交渉はしない。
何一つ渡さない。
「欲しければ命がけで来るがいい」なのだ。
「ほ、本気なのだな?」
今なら…
今なら聞かなかった事にしてやるぞ?
後悔しても知らないぞ!」
「何を後悔すれば良いのでしょうか。
全てを差し出せと言われたのです。
ですが差し出せる物は「何一つありません」デルフィナス王国の方々が、
奪うと言うのならば私達は命を掛けて抵抗するだけです」
「ちがう!そうじゃない!交渉なのだ!交渉を!」
「ですから交渉は決裂ですから戦いましょう」
「だから!」
「お話はこれまでです
さぁ大人しく母船にお戻りになられるか、
それともここで胴体と首が別れるか…
どちらでも好きな方をお選びくださいませ」
この場において傍若無人に振舞い続けた使者が妥協したとて、
それを受け入れてやる義理はないのだ。
ある程度の戦力の目算もついている情報を吸い上げる事を目的として、
使者殿達にはとっても「甘い物」を与えたが、もう得られる物が無いのなら、
此方が譲歩する理由は勿論ない。
自然に優美に体を動かして私はスッと出口の方を指さしながら不敵に笑う。
笑って余裕を見せてあげるのだ。
交渉が決裂する理由を考えろ。
そして何故舐められると分かりそうな女が代表者として振舞えるのかを、
理解できない程度の使者相手にに交渉を続ける意味がファルスティンにはない。
当然ここで真面目に交渉をしてもただ「時間を稼がれるだけ」なのだ。
どうせ交渉をもう一度始めた所で、今目の前にいる使者は船に戻れば、
報告をして同じ要求をしてくる事しか出来ない事は簡単に予想がつく。
だから私はその不敵な表情を変えないし出口を指したままの腕は何を言われても、
下ろせないのだ。
私のその態度に明らかな苛立ちを見せる使者達だけれど、
此方に決断を下させる情報を与えた時点で既に何を言っても聞き入れられない。
遅いのだ。
「あああう、だから!」
「お帰りになられないのですか?」
「交渉を!もう一度交渉を!」
「必要ありません。
さぁ、お出口は後ろです。
お帰り下さいませ」
ニコリと微笑んで退出を私は促したのだ。
パシンと軽い音を立てて扇子を閉じてあげれば、
静かな空間ではよくその音が響く。
そして扇子を使って出口を指してあげれば、更に強く「帰れ」と主張できるのだ。
同時に私を守る様にグラファイスが私の前に立つ。
それはもう会話が終わった事を意味していた。
私が物理的な排除をチラつかせたと言う意味である。
言葉での戦争が終わってしまったと。
貴方達の飲む回答は武力を持って得るしかないと言う正式な宣言でもある。
後はその場から引き下がらないのであれば使者の首が胴体から離れるだけ。
使者はそのまま馬車へと詰め込まれると乗って来た船に乗せられ、
母船に帰る事になったのだった。
会談が終わった後にギネヴィアが心配そうに私に話しかけてくるのだ。
「本当に良かったの?」
「交渉相手にアレを送って来たのだから仕方が無いじゃない?」
「そうかもしれないけれど…」
「おそらくだけれどね?
あっちにとっては最悪の結果よねぇ。
でも、そう言った態度で来たのだからあの船の船長は「死にたい」のでしょうよ」
それを私が止めてあげる事は出来ないわ」
追い込まれていたのは外洋に留まる船だと私は考えている。
この辺り一帯の土地は全てファルスティンの管轄下なのだ。
そして外洋からやって来る帆船の移動時間と船の大きさ。
そして船内に並ぶ大砲などの量から考えればきっと水と食料は、
本国に帰れるか帰れないかの瀬戸際しか積んでいない。
だからせめて最低限の補給したかったのだとも思う。
けれどお金は払いたくない。
だから国交を結んでいない事を良い事に恫喝して水と食料を献上させようとした。
その辺りの自己都合も強く働いたのだとも思う。
そして他の艦隊がこっちに接近にしているのもきっと本当だろう。
けれど何某かのトラブルを抱えているのだ。
そこで先行して無事な帆船に安全に停泊できるところを、
探させたと言った所だったのかもしれない。
入江に船を入れてそして船のトラブルを解消し食料と水を補給したのち出港する。
けれど目星を付けていたこの場所に私達が住んでいたから排除しようとした。
あわよくば現地住人の私達を奴隷として酷使できれば最高の結果なのだと。
そう言う事なのかもしれない。
ともかくデルフィナス王国の「交渉」と言う名の戦線布告は終わったのだ。
これからは躊躇わず敵と宣言したデルフィナス王国に対して、
武力を行使する場面にまでなってしまったという事なのである。
もう「デルフィナス王国」の外洋艦隊は戦い以外の方法を、
選ぶ事が出来なくなってしまったのであった。
入り江への侵攻はデルフィナス王国の艦隊を地獄に叩き落とす事になる。
だって突き付けたデルフィナスの剣は都市ギネヴィアの中核へは届かない。
その短すぎる短剣を突き付けたデルフィナス王国の素晴らしい艦隊は、
都市ギネヴィアの長すぎる槍に串刺しにされるのを、
お行儀よく並んで待っている状態だったのだ。
その事をデルフィナス王国軍の艦隊が身をもって知らされるまであと少し。
と言う訳で入り江の奥に作られていた都市ギネヴィアも見つかってしまいました。
巨大都市と言って良いほど育った都市ギネヴィアは、
海からはほとんど見えませんが。
それでも近づかれれば大都市がある事は丸見えでした。
そしてついに見つかってしまったのです。
デルフィナス王国は言うまでもなく海洋国家です。
少なくとも外洋に出れる大型の帆船を軍艦として、
仕立て上げる事が出来るレベルでした。
けれどその船の構造は帆船であり動力は自然風なのです。
あとはお察しの展開が待っています。
この時代においてはまだ大型船舶を木造で作れる時点で先進国のトップを走れる、
技術レベルです。
はっきり言って叔父様の錬金魔法の技術レベルは世界を壊せます。
剣と弓矢と魔法が主戦力となっている世界では、蒸気機関の作成が出来る時点で、
オーバーテクノロGであり産業革命が起きた時点で、ギネヴィアが昔宣言した通り、
全力で追い上げられたとしても20年は追いつけません。
この世界の標準技術ではまだ大型の帆船を風魔法で無理矢理動かすのが、
通常の状態での最速の移動手段かも知れません。
で最新式の外洋航行が出来る帆船が作れた海洋国家のデルフィナス王国は、
隣国を蹂躙してきましたが…その侵攻した先で偶然見つけた、
都市ギネヴィアにも当然の様に今までと同じ対応をして来たのです。
なまじ今までの交渉がそうやって上手くいっていたからデルフィナス王国も、
これから苦しくなるかもしれないですね。
因みに叔父様が冒険に出港した方向と逆側から来たので、
叔父様の船をデルフィナス王国は一度も見ていません。
当然、ファルスティンのその造船能力の高さも知らないのでした。
ただ、ファルスティンと言うか都市ギネヴィアは、
木造船の製造はしたことがありません。
初めから叔父様が作った小型の動力付きの鉄戦でした。
一足飛びで造船業も始まりましたから勿論都市ギネヴィアには乾ドックが、
当然ですが複数あります。




