使者達にお返事をする為に準備をしないとね。
当初の横暴も鑑みて要求される事は多くて、
要望を聞くと問いかければ出るわ出るわ聞き入れられない言い分が。
もう奴隷国家に成り下がれと言って来ている要求を聞き流しながら、
ちゃんと書面化したのちデルフィナス王国の要求に、
正しく返答してあげなくてはいけないからね。
もちろん臨時列車として鉄馬を領都へと走らせて、
その返答も聞かなくてはいけないのだから。
「さて、どういった形で推移していくのかしらね」
「ライセラス様がこの要求を呑むとは到底思えません」
「当然でしょうね。
だから私としては戦う許可さえもらえればいいと思っているのよ」
「もう、止められないのでしょうか?」
「ムリでしょうね。
妥協案が何も出て来ないのだからアレは交渉と言う名の、
宣戦布告に等しいわね。
少なくとも私はそう考えているわ」
暗い話題と言う訳では無いけれど、
取り敢えず目的の相手の外洋船は接岸させなかった。
その事にやれ「海のルールを守れ」とか「我が国のルールは絶対だ」とか、
色々言われるのだけれどそれも放置するしかなかった。
それらの言いがかりは「国交」を結んでいるのであれば解るけれど、
今はそうじゃない。
全ての関係は「国」と「一領地」との関係であるが。
今この瞬間はデルフィナス王国もファルスティン領も関係ない。
私達と船乗りから来た使者だけの話合いなのだ。
使者は私達の用意した「おもてなし」を痛く気に入り三日目にして、
その横暴が色々と激しくなって要求が苦しくなってきた。
もちろん「大切な使者」だから何をされても我慢してもらう様に、
言いくるめていたけれど流石に「夜のお相手」を要求された時には、
どうしようかと悩んだものだ。
一応都市ギネヴィアにもそう言ったものを発散する場所はある。
あるのだがそれはあくまで領民向けなのだ。
さてどうしたモノかと考えていたのだけれど、
もう面倒くさかったからガバガバと睡眠薬入りのお酒を飲ませて、
そのまま酔い潰させて貰った。
けれど…
最短の列車として発車させた鉄馬が、5日後にはお兄様からのお手紙を、
悩める私達の所に届けてくれたのだった。
それにはとんでもないことが書かれていたのだった。
―エルゼリアにこのデルフィナス王国との交渉の全権限を託す―
―好きにすると良い―
それだけだった。
そのライセラス兄さまからの手紙の返信を全員で確認した時、
もうグラファイスとアルフィンの目がギラ付いていたのは言うまでも無かった。
おもてなしついでに陸おいしい食べ物を外洋に停泊している船に届けさせ、
その楽しいお食事の時間中に「色々な物を見て来た」所為で、
停泊中の船舶の構造もなんとなく把握できたみたいだった。
典型的な大砲を並べた「軍船」であり、
その戦闘方法はとても古式ゆかしい方法が想定されているみたいだったとのこと。
戦列を組んで一列に並んで打ち合い、
抵抗できなくなったら相手の船に乗り込んで制圧する。
それがスタンダードな方法な事で…
積まれている大砲?らしきものがどれほどの能力を持っているかが問題…
となるかと思ったけれど玉となる弾丸が鉄の丸い球である鉄塊だったために、
アルフィンの部下の見立て手では飛んで最大でも1.5k程度ではないかと、
外側から見た感じ船体の両側に並べていたとしてもその窓枠から算出した、
砲の大きさと木造船の絶えられる最大重量から考えればそんな所ではないかと、
なかなか面白い情報も掴んで来てくれた。
それを見て推測できてしまう辺りアルフィンの部下もそれ相応の、
目を持っているって事なのだけれど…
外見と窓の大きさからそれを推察するってどれだけの事が読み取れるのか、
ちょっと恐ろしくなった。
けれど、それだけでも敵は大砲を主戦力とした船舶で、
武器は常識の範囲内であり「超常的」な力である魔法を主戦力としていないと、
解っただけでも気分が楽になった。
純粋に工業力の差で、戦いが出来るのであればこちらの勝率はどう考えたって、
跳ね上がる。
相手の戦力が解明されればされるほど、慌てる必要が無いと分かり、
私の緊張の糸は少々緩み気味となっていたのだった。
あと、半年デルフィナス王国の船舶の到来が早ければ、
始めの交渉も違っていたかも知れない。
叔父様特性の巨大船舶をその目にいれる事になり、
当然その船舶を見ればこのただでは済まない事も、
技術力がある事も当然理解できてしまう。
「湾内に誘い込んで弾丸の雨を降らせれば間違いなく勝てますね」
「ええ。さして苦労もしないでしょう」
「ですが養殖業には影響が出そうですね」
「その件に関していれば代替地で始まっているから湾内は潰れても大丈夫よ」
「であれば可及的速やかに排除した後、都市内の体制を戦時下から、
通常状態に一刻も早く戻す方が良いでしょう」
「援軍と合流させてまとめて叩きつぶして憂いを解消しましょう」
見解一致でデルフィナス王国艦隊が来るなら叩きつぶす事が決まった瞬間だった。
けれど大砲を積んだ帆船では陸上からの無限に等しい弾丸の雨を受け続ける事は、
出来ないでしょうから…
重工業都市であるのだから当然弾丸の製造すら可能なのだ。
原料を鉄馬で運び込み生産してその場で敵に向けて発射する体制すら取れるのだ。
後は物量に任せて叩きつぶすのみだ。
「戦争になるのかしらね?」
「相手が宣戦布告してきた以上戦争でしょう」
「そう、なのかもね」
既にアルフィンとグラファイスはやる気満々なのだ。
そして二人は最悪文字通りに「魔法」で空を飛び「敵」に対して、
悪魔の様な一撃を叩き込めるのだ。
保険と言う意味でも万全。
なので使者に対して、最後に「おもてなし」をして差し上げることにしたのだ。
港に仮設した交渉場所ではなくて、ちゃんとギネヴィアのお屋敷に読んで、
お返事を聞かせてあげる事にしたのだった。
もちろん都市ギネヴィアにはライセラスお兄様がいらした時に、
使う謁見の間の様な場所もある。
今回はそこを利用してお返事を聞かせてあげることにしたのだった。
それはつまり、グラファイスの部下とアルフィンの部下に囲まれながら、
現在の代理の交渉権を持つ私が好きにお返事してよいという事であり、
そうなると、9日目の朝私は使者に対してお返事する場を作る事になる。
そうなればまたデザイナーが私専用に正式なドレス持ち込み…
当然ギネヴィアのお部屋からは悲鳴が聞こえる事になる。
「リ、リチェ!私関係ない!」
「はいはい。今日はエルゼリア様の後ろに控える必要があるのですよ?
勿論関係がありますね!あはははは」
「コルセット!コルセットが小さくなってる!ぎえぇぇぇぇ」
「あはは気のせいでーす。
ギネヴィア様がワイドになったの間違いですよぉ。
あれほどリチェはおやつを減らした方が良いとお願いしたのに、
食べたのはギネヴィア様なのでーす。
朝からギネヴィア様は元気で私はとっても気分が宜しいのですよぉ」
どんな形であれ外国との使者にこの国の代表として「ご挨拶」するのだ。
正装から逃げられる訳が無いのに未だにギネヴィアは諦めない。
用意されていた物は私とお揃いのドレスに少々フリルやレースの図柄を、
バルダー向けに改修して仕上げた物なのだ。
毎週の様に私が新しいデザインをお抱えのデザイナーに作らせて着ているのに、
ギネヴィアのドレスを作る作成集団が「羨ましがらない」訳が無いのだ。
そのはけ口は当然着る事を拒否できない礼服関係のドレスにぶつけられる。
普段から溜まりに溜まった「羨ましさ」をぶつけられたドレスを着せられるのだ。
当然ギネヴィアのコルセットは我慢できる限界まで細くなる。
ある程度着てあげれば良いのにね。
せめて書類整理の時にだったら動かないから着たって良いでしょうに。
あの任命式の前日に語らいあった夜がちょっと懐かしいわ。
任命式を我慢してそれでもう正装をする必要が無いなんて、
思っていたのかもしれない。
でも「バルダー」なのだから我慢してきなさいな―としか私は言えないのだった。
私の後ろに控えるだけ。けれどその地位はこの場においては、
ナンバー2の地位となるのだ。
私と同等のドレスを着ない訳にいかないのだ。
予定通りの進行で私とギネヴィアはその使者と対面する事になる。
何もない応接室の様な空間を用意したのは当然こちらの決定した意志を伝えた後に、
起こるかもしれない事にグラファイスとアルフィンに対応して貰う為である。
当然私はその決定を領主の代りに伝える代理人その意味でも舐められても困る。
だからもう妥協も協議もないし結論ありきでこの交渉に臨む事にしたのだった。
部屋の奥に壁を背にする形で、その後ろにギネヴィア。
隣にリチェルチェに立ってもらい、
私の左右にには礼服のアルフィンとグラファイス。
とはいえ、何時だって剣は抜ける体制ではあった。




